後悔することは判っている

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 早朝、暑くて目が覚めた。  寝る前からつけていたエアコンはおやすみタイマーで切れている。  喉が渇いていた。非常に乾いていた。そして私の脳裏に一つの考えが浮かんだ。  アイスを食べようか。  起きたばかりの、空っぽになったこの奇麗な胃の中にアイスを?  そんなまさか!  朝の奇麗な胃には豆乳入りのスムージーじゃなければ!  そんな白砂糖の塊みたいなアイスを、この奇麗な胃の中に入れるなんてとても出来ない!  しかし、異常な熱帯夜が私の冷静な判断を攪乱する。  試しに食べてみようか。喉はカラカラ、唇も乾燥気味、体は熱を持っている。アイスで速攻冷やすのも悪くないではないか。こんな事、年に一度あるかないかだ。  水分の抜けた重い体をキッチンに移動させ、まずは一杯の水を飲んだ。  これで十分じゃない?  いや、体が熱いから。  手は冷凍庫の引き出しドアを開ける。  ミントのアイスバーが涼しげに収まっている。  手に取り、ドアを閉める。袋を開ける。  まて。後悔することは判っているだろう?  いや、一度きりの人生だ。試してみようじゃないか。  私はアイスにかじりついた。ヒンヤリと甘い快楽に口をゆだね、一本まるごと全部食べた。  食べてしまえばあっという間の出来事だ。別に胃はもたれていない。体の内側が冷やされ心地よいくらいだ。何もそんなに深刻にならなくても、このくらいの事……  食べ終わり、一息ついてまた水を飲んだ。  胃はもたれていない。しかし、五分もすればメンタルがもたれてきた。冷静になれば胃に異常がないことは判っている。しかし、せっかくの朝の奇麗な空っぽの胃の中に白砂糖の塊が今鎮座していると思うと、なんか気持ち悪い。  判ってたはずだろう?  誰かが嘲るようにそう言う。  うるさい!  私は洗面所に向かい、歯磨きを始めた。口を奇麗にしたところで、胃の中の状態は変わらない。が、せめても、だ。  歯磨きをしながら鏡を見つめる。  そこに映る自分の軟弱な精神がゆるせず、心の中でため息した。
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