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しかし、警備隊の様子がおかしい。
「あのヤツ、どこ行った!!」
雨音にかき消されそうになりながらも、私の耳はわずかに声をとらえた。
「警備隊が犯人を見失ったようです! 一同警戒態勢!」
もうこのときには、私がマシューの婚約候補のふりをしていることを忘れていた。そんなふりをしている場合ではない。私の本当の任務は殿下の警護だ。
弓から長剣に持ち替え、近距離戦に備える。
真後ろから気配を感じた。
「ゼノスタンの王子なんて死ねばいいんだよ!!」
振り返ると、盾の壁を越える高さから、刃物を突き出しながら犯人が飛びかかってきていたのだ。私が初めに見つけた犯人である。
盾に足が当たってバランスを崩すものの、逆に反動がついて今まさにマシューを刃物が切り裂こうとしていた……!
私は左手に持っていた盾を捨てた。
「フンッ!!」
剣先で刃物を弾き飛ばすと、倒れかかってくる犯人を左腕で支える。
ところが、これが犯人の体勢を立て直すきっかけを作ってしまった。
「そこの女、ありがとさん」
余裕そうに私にお礼を言ってくるが、そんなに隙を見せていいのだろうか。
「だけどな……まだここにグハッ」
まず胴に峰打ちした。犯人の体勢が崩れ、すかさずもう一発 脛に峰打ちを食らわす。
犯人を転ばすことに成功した。
「王族殺害未遂で現行犯逮捕だ」
リッカルドたちが盾で犯人を押さえつけ、腕を縄でしばって確保した。騎士団で唯一片刃の長剣を使う私だからこそ、犯人の傷は最低限で済んだ。
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