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「いえ、クリスタルさんは私の婚約候補です」
と、マシューは言い切ったのだ。
「殿下!? しかし私は平民――」
「平民でも構いません。この一カ月で私はあなたがとても魅力的な人だと感じました。法がそれを許さないのならば法を変えます。心身ともに強い女性、まさに私が求めていた女性です」
そっか、貴族だと体が強い女性は少ないかもね……ってうわぁっ!
マシューは私を抱き寄せた。
「あんなに強いのに、どうして自信なさげだったのですか。もっと自分を信じればいいのですが、これはギャップというものですかね」
マシューの言葉で、今すぐここから離れたい衝動にかられる。あぁ恥ずかしすぎる。恋愛経験も何もない私には刺激が強すぎる。
と、そこに。
「「「お待ちください」」」
この広間で警備をしていた例の三兄弟、ディスモンドとリッカルドとオズワルドが止めに入ったのだ。
「クリスタルは騎士団の副団長で、弓も剣も扱える有力な人材でございます。ですので――」
「兄上、そう言っておいて本当はクリスタルのことが好きなんでしょう? まぁ、俺がスカウトしたから俺の将来の嫁ですが」
「リック、お前は何を言っている」
「それを言うなら僕はクリスタルちゃんに剣術を教えた師匠ですよ~。クリスタルちゃんといる時間は兄上のお二人より多いと思いますが~」
「時間の問題ではない。あのなオズ――」
なぜか三人で揉めだしてしまった。えぇっと……何か言った方がいいよね。
「私はまだ外の世界を知って一年経ってないので、恋愛というのが分からないんです。しばらく考えさせてください」
これを聞いたマシューと三兄弟の無言の張り合いがより激化してしまった。曖昧に言ったからだろう。
だが、マシューの言葉の「もっと自分を信じればいい」は頭にこびりついた貴婦人の悪口をかき消してくれた。
そしてそのまま、何日も私から離れることはなかった。
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