第2話

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第2話

 私はこのベーム騎士団でたった一人の女騎士なので、寮生活ではなく王都の中のとある宿屋で寝泊まりしている。  毎朝そこから騎士団寮に赴き、他の騎士と一緒に訓練をしたり、見(まわ)りをしたり、警備をしたり、警護をしたりしている。もちろん有事のときは民や国を守るために戦う。  晩餐会の警備をした次の日、私が騎士団寮に出勤すると、入口近くでリッカルドに呼び止められた。彼はベーム三兄弟の二番目で、私をこの騎士団にスカウトしてくれた張本人である。 「父上から『今すぐに団長室に来るように』と伝言を預かっている」 「了解しました。ありがとうございます」 「俺も呼ばれてるから一緒に行こう」  役職としては彼より上になったが、敬語を捨てようとは到底思えない。彼の長い黒髪をなびかせたたくましい背中が、あまりにも私の目に焼きつきすぎている。  ノックをして団長室に入ると、中には団長の他に、ベーム三兄弟の長男のディスモンドと眠そうな顔のオズワルドがいた。 「よし、四人そろったな」  今ここに団長と副団長と三隊長が集められたことから、これから話されることの想像は容易い。 「昨日の午後、国王陛下と王太子殿下と私で会談を行ったのだが、そこで殿下から『近々極秘で、隣国の王太子ご夫妻がいらして会談をするから、厳重な警備を頼みたい』と仰せになられた」  眠そうに瞬きを繰り返していたオズワルドだが、その言葉を聞いたとたんに目がカッと開かれた。いつものふわふわした雰囲気からは想像ができないほどの真剣な目である。 「王城の警備と、要人の警護――」  ディスモンドが慣れたように話を進めようとすると、団長は「頼まれたのはそれだけではない」と言ってそれを止めた。  再び緊迫した空気が流れる。 「王太子殿下が警護人をご指名なさった。それは――」  まぁ、長男のディスモンドさんかな。  そう考えていた私に、団長の目線が刺さる。  …………えっ、まさか。 「クリスタル君だ」  私はこの状況をすぐには理解できなかった。 「わ……私ですか」  自らを指さし、もう一度尋ねても答えは同じだった。 「そうだ。王太子殿下はクリスタル君を警護人にご指名なさった」 「は、はい。了解いたしました」  とりあえず返事はしておくが、実感が湧かない。私の存在が王族に知られている事実すら納得できていない。 「ですが……いくら私が副団長とはいえ、平民生まれで元は冒険者です。そんな私が王太子殿下のお隣にいていいのでしょうか。それに、王太子殿下を常にお守りしている方がいるというのに、なぜわざわざ私を」  どうして私なんかに、という感想しか出てこない。 「その詳細はクリスタル君にしか話さないそうだ。私もお伺いしたがお答えにならなかった」  私が直接質問しなければならないそうだ。うぅ、足が震えてきた。 「本日の午後からさっそく顔合わせをしておきたいそうだから、昼食を取ったらすぐに王城へ行くように」 「りょ、了解です」  私がこの事実を飲みこめるようになるまで、現実は待ってくれないようだ。  背中に冷や汗をかいたまま、午前の訓練は始まってしまった。
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