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「そなたが副団長のクリスタルか」
王城の執務室に通され、私は初めて国王の顔を見た。自己紹介をする前にフライングで名前も役職も言われてしまった。
「はい。お初にお目にかかります、ベーム騎士団副団長のクリスタル・フォスター・アーチャーと申します」
騎士になってから少しずつ身につけた礼儀作法が、ここでようやく発揮される。丁寧な言い回しは慣れておらず、たどたどしくなってしまった。
「今日はよろしく頼む。こちらが私の息子だ」
国王の前の机を挟んで立っている人を指し示す。
国王と似た、王族らしい白い肌に金髪。そして緑色の目にメガネをかけている。
「マシュー・ド・ウォーフレム、こう見えても王太子です。よろしくお願いいたします」
落ち着いた声にどこか知的な要素も感じられるが――
「こちらこそ……あの、私に敬語などお使いになられなくても結構ですよ」
「すみません、敬語ではないと気が済まない性格でして」
「え、あ、はい、そうなんですね」
驚くほど腰が低い。低すぎて地面に埋まってしまうのではないかと思うほど、腰が低い。
机の前には二脚のイスがあり、片方にマシュー、もう片方に私が座った。まさかの王太子と私が同じ扱いを受けていることになっている。
「さて、団長から話は聞いていると思うが、来月の初めに隣国のゼノスタン王国の王子夫妻と、国境軍備に関する会談を行おうと計画している。そこで、そなたにはマシューの警護をしてほしいのだ」
「はい、存じております」
さっそく、団長にすら話さなかった『私を選んだわけ』を聞いてみる。
「ですが、どうして私をご指名になられたのですか。マシュー殿下には普段からお付きの方がいらっしゃるはずですが」
「あぁ、団長にも同じことを聞かれたな」
そう言って苦笑いをする国王。ふと横にいるマシューを見てみると、気まずそうに目線が斜め下に下がっている。
これは何か、聞いてほしくないことだったのかな? いやいや、気になるし。
「警護の説明をするときに一緒に話そうと思っていたのだが、単刀直入に話そう。そなたには警護だけではなく、マシューの婚約候補として振る舞ってほしいのだ」
「婚約候補……ですか」
ポカンとしながら再び隣のマシューに目をやる。どこか申し訳なさそうに小さくうなずいている。
ここでようやく国王が理由を話してくれた。
「実はな、王子夫妻と会うたびにマシューのことで小馬鹿にされるのだよ……。『まだそちらの国の王太子には婚約候補すらいないのか』と」
そ、そうなの!? か、かなりの私情だ……。
「私は十九で、もう結婚しなければならない年齢なのですが、どの女性とも交際にすら至らなくて。私に跡継ぎができなければ王家断絶……そんな私を王太子夫妻はあざ笑いつつ、国を狙っているのです」
そっか、マシュー殿下は一人っ子だから……。王家独特の世継ぎの問題と侵略問題も絡んでるとは。
「事情は分かりました。ただ……私のような平民、ましては元冒険者が殿下の婚約候補だと振る舞ってよいものなのでしょうか」
「マシューを守り抜いてくれるのなら身分は関係ない。ただ、難癖をつける民もいるだろうから、そなたが貴族出身の騎士ということにすればよい」
偽りに偽りを重ねる!?
「承知いたしました……」
かなり大胆なことを考える国王に圧倒され、もはや返事しかできない私だった。
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