第2話

3/3
前へ
/15ページ
次へ
 国王と王太子との初対面のあと、王城の敷地内にある図書館で、礼儀作法についての本をとりあえず十冊と辞書を借りた。  そのままいつも寝床としている宿屋まで本を持ち帰る。 「よいしょ、ただいま帰りました」  何とかドアを開けると、女主人のエラが目を丸くして駆け寄ってきた。彼女は私が冒険者パーティを追放された直後から今までを知る恩人である。 「おかえり……っておい、何だいその本は?」 「急遽(きゅうきょ)、貴族の女性としての振る舞い方を勉強しなければならなくなったので」  エラに、『王太子の警護をしつつ婚約候補として振る舞う』ことになった経緯を説明した。 「なるほど。『尽善尽美(じんぜんじんび)の王子』と言われる王太子にそんな裏があるとはな」  ニヤリと笑うエラ。 「ほ、他の人に言わないでくださいよ!?」 「あぁ、分かっている」  時々――いや、このようにエラはよく私を弄ぶ。毎度ハラハラさせられるから困るのだが。 「まぁ、あたしとしては、クリスタルがそんなすごい仕事を任されるようになったことが(うれ)しいだけなんだけどな。勉強のお供はあたしが作ってやるから、頑張るんだよ」 「ありがとうございます!」  この宿屋は食事処も兼ねているので、たまにこのようなサービスをつけてくれる。  私は、エラに()れてもらった紅茶を飲みつつ、クッキーをつまみつつ、辞典で言葉を調べつつ、借りた本を読み進めていった。  昼間も本を持ち歩いて、訓練や任務の合間を使って勉強した。  結局、読破するのに一カ月かかった。 「ホントは貴族の方に教わった方が一番手っ取り早いんだけど……誰も私なんて相手にしてもらえなかったなぁ」  十冊目の本をパタッと閉じてつぶやく。  土を被り、血を流し、筋肉を酷使するような生活を送ってきた私に、『貴族の女性』など一番程遠い存在だ。ぶっつけ本番だが、何とか偽ることはできるのだろうか。いや、やってみせる。絶対に。  打ち合わせでもらった資料とひたすらにらめっこし、脳内でシミュレーションを繰り返した。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加