第3話

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 二時間かけて国境付近に到着した。予定通りの、王子夫妻が来る三十分前である。 ここはウォーフレムとゼノスタンの人や物資が行き交う場所なので、辺境のわりに栄えているところだ。  国境警備隊によると、王太子夫妻も時間通りに到着する予定らしい。何も問題なさそうでよかった。  馬車の外が騒がしくなってきたので、少しカーテンを開けて伺ってみる。 「…………あ」  ここら辺に住む人たちが、マシューや王子夫妻を一目見ようと集まってきていたのだ。ちらほらではなく、人垣ができている。  その人垣がこれ以上私たちに近づかないよう、国境警備隊が盾を使って押さえている状態だ。 「殿下、外に大勢の民が見物しに来ていますよ」 「これは……想定より多いですね」  これからする会議の内容はまさにこの場所のことなので、関心を持っている人が多いのだろう。  だが、夫妻の到着を待っている間に雨が降り始めてしまった。それでも人垣は崩れない。 「ご夫妻がまもなく到着いたします。ご準備をお願いいたします」  付き添いの騎士が告げる。あぁ、こんなときに雨降らなくてもいいのに……。    傘を付き添いの騎士にさしてもらいながら、まずは王太子が馬車を降り、次に私が王太子に手を借りながら馬車を降りた。 「きゃーーーーっ、王太子殿下よ!」 「隣にいる女の人は誰?」 「もしかしてガールフレンド?」  私の地獄耳が野次馬からの声を一つ一つとらえる。ひとまず私が婚約候補と見られているようで安心した。  ガラガラガラガラ……  馬車の車輪の音が聞こえてきた。  しとしとと降る雨の中、王子夫妻を乗せた馬車が到着した。 「お久しぶりでございます」  マシューは帽子をとり、馬車から降りた二人にあいさつする。私も続けて自己紹介した。 「お初にお目にかかります。マシュー殿下の婚約候補のクリスタル・フォーゲルと申します」  名字も念の為偽っておく。本名のフォスター・アーチャーではすぐに『名字がある平民』だとバレてしまうからだ。騎士団長の名字なら問題ないだろう。 「ようやくマシュー様にもお相手ができたようで。よかったですね」  うわぁ……何その嫌ぁな言い方。  顔に出ないようにしつつ、心の中でドン引きする私。マシューと顔を合わせて愛想笑いをした。
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