アンゼルマは逃げられない。

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アンゼルマは逃げられない。

 恋人である、一穂(かずほ)の様子がおかしい。そう思うようになったのは、半年ほど前のことだった。家でデートをしている時、彼女がカレンダーを見てぽつりと呟いたのである。 『あと、半年か……』  大人しい、草食系、地味。そう言われる僕と正反対の見た目と性格である一穂。モデルみたいに背が高くて派手な美人、いつも元気いっぱい。そんな彼女に引け目を感じることもあったが(あまりにも釣り合ってないと感じてしまうからだ)、少女のように甘えてくる彼女は可愛らしかったし、いつも頼りにしてくれるのはすごく嬉しい。ましてや、こんな美人な彼女がいて誇りに思わない男はいないだろう。  積極的にぐいぐい来てくれるのも悪くない。というか、僕が奥手なタイプなので、彼女の積極性に助けられることは少なくないのである。この日のおうちデートもお泊りも、言いだしたのは彼女の方だった。その日も二人で買い物から帰ってきて、ちょっと豪華なテイクアウトを買って食べたすぐ後であったのである。  さっきまで笑っていた彼女の顔が、明らかに強張っていた。まるで、何かに怯えるように。 『どうしたの、一穂。何か悩み事でもあるの?』  僕が心配していると、彼女は慌てたように首を振って“何でもない”と笑ったのだった。  この時は、それ以上おかしなことは何もなかったのである。――彼女が言う“あと半年”。その間にどんどん、彼女が僕に暗い顔を見せることが増えた意外は。
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