ひと夏

1/1
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
 八月第一金曜日の夜。女はホテルのバーのカウンターでカクテルを飲んでいる。毎年夏休みの初日はホテルに一泊することにしている。そろそろ部屋に戻ろうかと思っていたら、店員が「あちらのお客様が一杯ご馳走したいとおっしゃっています」と声をかけてきた。  テーブルの客に微笑みながら会釈すると、男は「こちらで一緒に飲みませんか」と勧める。異論なく女は応じる。  男は今夜から一か月の休暇をホテルで過ごすという。どこかの会社の後継ぎといったところか。毎年このホテルに滞在しているらしい。  話が弾み、バーの勘定は男の部屋に付けて、さらに男の部屋で飲むことになった。  女の部屋に行き、荷物を取り出し、フロントでチェックアウトして、男の部屋に移動する。  互いに休暇を楽しむための滞在なので、外出する予定はない。気楽な休暇の始まりに改めて乾杯した。  女は毎年違うホテルに一泊している。  初対面の男との長い夜が始まる。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!