君のところへ、真っすぐに。

6/8
前へ
/8ページ
次へ
「来なくていいって、どういうことだよ」  怒気をはらんだ声がした。  回想に浸っていた俺は振り返る。怒った顔なんてはじめて見た。 「……だってお前、来年から大学生だろ。どこ行くんだよ、東京か? ここにはもう来られなくなるだろ」 「来るよ。絶対に来る。今みたいには無理でも、頻繁にこっちへ来るから。来なくていいとか、そんな、悲しいこと言うなよ……」  つぶらな瞳が微かに潤んだ。泣かないと決めたはずの俺も鼻の奥がツンとして、思わず目元を覆った。高校生になっても、三年間ずっと矢来は俺のところへ来てくれた。でも俺にはそれが、矢来の人生を邪魔しているように思えて申し訳なかった。 「……無理なんだよ……」 「無理じゃないよ、お前が何と言おうと俺はお前に会いたいよ。約束しただろ……一緒に甲子園出るって」 「無理だっつってんだろ……!!」  矢来を突き飛ばして、俺は(わめ)いた。  きょとんとした顔の矢来にぶつける。本当に、もう会えないんだよ、と。 「潰れるんだってさ。この学校」 「……え」 「今年で終わり。お前には言ってなかったけどな」 「……じゃあ、じゃあお前は」 「春まではここにいられるけど……そのあとすぐに取り壊されるらしいから、俺もどうなるか。部室だから関係ないのかな。自由に動けたらいいのにな」  矢来は言葉を失った。  少子化によって着々と進められている合併(がっぺい)政策、といえば田舎ではよくある話だけれど。 「……あの事件のあと、子供のほとんどが隣町の中学に進学するようになったらしい。そりゃ怖いよなぁ」  呆然と見上げる彼の唇がふるえていた。その頬を伝い落ちる涙を見て、いい仲間と出逢えたもんだなぁ、と俺はまた泣きそうになる。  ──中学三年生の夏、俺は殺された。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加