1人が本棚に入れています
本棚に追加
「来なくていいって、どういうことだよ」
怒気をはらんだ声がした。
回想に浸っていた俺は振り返る。怒った顔なんてはじめて見た。
「……だってお前、来年から大学生だろ。どこ行くんだよ、東京か? ここにはもう来られなくなるだろ」
「来るよ。絶対に来る。今みたいには無理でも、頻繁にこっちへ来るから。来なくていいとか、そんな、悲しいこと言うなよ……」
つぶらな瞳が微かに潤んだ。泣かないと決めたはずの俺も鼻の奥がツンとして、思わず目元を覆った。高校生になっても、三年間ずっと矢来は俺のところへ来てくれた。でも俺にはそれが、矢来の人生を邪魔しているように思えて申し訳なかった。
「……無理なんだよ……」
「無理じゃないよ、お前が何と言おうと俺はお前に会いたいよ。約束しただろ……一緒に甲子園出るって」
「無理だっつってんだろ……!!」
矢来を突き飛ばして、俺は喚いた。
きょとんとした顔の矢来にぶつける。本当に、もう会えないんだよ、と。
「潰れるんだってさ。この学校」
「……え」
「今年で終わり。お前には言ってなかったけどな」
「……じゃあ、じゃあお前は」
「春まではここにいられるけど……そのあとすぐに取り壊されるらしいから、俺もどうなるか。部室だから関係ないのかな。自由に動けたらいいのにな」
矢来は言葉を失った。
少子化によって着々と進められている合併政策、といえば田舎ではよくある話だけれど。
「……あの事件のあと、子供のほとんどが隣町の中学に進学するようになったらしい。そりゃ怖いよなぁ」
呆然と見上げる彼の唇がふるえていた。その頬を伝い落ちる涙を見て、いい仲間と出逢えたもんだなぁ、と俺はまた泣きそうになる。
──中学三年生の夏、俺は殺された。
最初のコメントを投稿しよう!