蕎麦屋

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 盛夏に蕎麦を食すべし。  そう思って車を走らせ、日本三大霊山と言われる山の麓を目指した。そこには、渓谷沿いに美味しい蕎麦屋が点在している。  東の空の片隅に積乱雲が空高く発達してきている。午後にも一雨あるのか。珍しいことではない、これが日本の夏空だ。今のところ、空の大半は青空が占めている。朝から太陽が強烈に、ここぞとばかり自己主張しているような暑い日だ。  高速道路を利用して一時間ほどかけて、行きつけのカフェに到着し休憩した。そこは、腰の高さまで大きな丸い石積みの基礎があるログハウスである。店の入り口付近にはシンボルツリーとして高く枝を張った菩提樹が日陰をつくっている。  店のマスターは、五十代半ばで四角顔、髪は七三分け、眼鏡をかけた物腰が柔らかい人物だ。店内には、某有名ブランドのスピーカーからいつも心地よいジャズが流れている。  この店に初めて来たときに、マスターとは以前流行ったヨーロッパのクラシカル・ジャズトリオの話で盛り上がり、それ以来懇意にしてもらっている。マスターは彼らのレコードを全部持っていると言う。
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