第十七回 警部は語る・その八

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第十七回 警部は語る・その八

     では、響谷(ひびきだに)君。話を続けようか。  次に、私と部下は、山田原(やまだわら)(ただし)の家へ向かった。  山田原正は貿易会社勤務で、二十九歳。一つ年下の妻、理恵(りえ)と二人で公営の団地に住んでいた。(おさむ)の場合と同じく、正に会ったことはあっても、住まいを訪問するのは初めてだ。  私がインターホンを鳴らすと、 「どなたでしょうか?」  ドアを少し開けて顔を覗かせたのは、背が高く、肩幅も広く、がっしりとした体格の女性。髪も短いせいか、ボーイッシュな雰囲気だったが、ドアの隙間から見える手の大きさは、体に似合わず、標準的な女性のサイズ。  これが、山田原理恵という人物だった。  警察手帳を見せただけで、こちらから何も告げる前に、 「ああ、警察の人ですね。やっぱり!」  彼女は笑顔を浮かべた。 「香也子(かやこ)から電話があったんですよ。警察が来た、って。だからうちにも来るんじゃないかな、って。ある意味、お待ちしておりました。先週の木曜日と金曜日に何してたか、それ話せばいいんですよね?」  なるほど。  これは話が早くて、助かる。 「あらあら、こんなところに立たせたままじゃ失礼でしたね。どうぞ中へ」  招かれるまま、私たちは部屋の中へ。  一応、正の帰宅時間を見計らって訪れたつもりだったが、 「まだ主人は戻っていませんので。こちらでお待ちください」  私たちが連れられた先は、キッチン兼ダイニングルームらしきところだ。  部屋の奥には、流しやコンロや食器棚、それに冷蔵庫や炊飯器といった家電製品。手前に置かれたテーブルには、椅子が四つ。  そのうち二つに、私と部下が座ると、 「どうぞ」  理恵が運んできたのは、麦茶らしき飲み物のポットと、三つのグラス。一つは自分が座る前に、二つは私と部下のところに置き、まず私たちのグラスに、麦茶を注いだ。  部下は軽く頭を下げるだけで――メモの準備をするだけで――、飲もうとはしなかったが、私は勧められるままグラスに口をつけた。「そういえば修のところでは、お茶の一杯も出なかったな」などと思いながら。  その間に理恵は私の真向かいに座り、私が口を開く前に、彼女の方から本題に入った。 「警部さんたちは、私と主人のアリバイを調べに来たんですよね?」 「形式的なものですから、緊張なさらずに……」 「あら、いいんですよ。そんな説明せずとも」  彼女は、何かを否定するかのように、軽く手を振りながら、 「私も主人も、やましいことなんて、これっぽっちもありゃしませんから。疑われたって怖くありません」  ハッタリでも何でもなく、本心から言っているような口調だった。 「すぐに主人も帰ってくると思いますが、先に、私の話をしておきましょうか」  そう言って、彼女は本題に入った。    
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