第一回 踏切前にて思うこと

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第一回 踏切前にて思うこと

     カンカンカンカン……。    まさに今から俺が線路を渡ろうとしたタイミングで、目の前で踏切が鳴り出し、続いて遮断機が降りていく。  無理して駆け込めば、まだ間に合うかもしれない。だが急いでいるわけでもないので、ゆっくり待つことにした。  ガタンゴトン、ガタンゴトン……。  列車が通り過ぎていく(さま)を、のんびりと俺は眺める。  電車は、青とクリーム色の鮮やかなツートンカラー。いわゆる横須賀(スカ)色と呼ばれるやつだ。まだ車体の横に、無粋なマーク――白い大きな『JR』の文字――も記されていない。  そうそう。  この『JR』という言葉は、1985年の皆さんにはピンとこないかもしれないし、言っても信じてもらえないかもしれない――あるいは噂で聞き知っておられる方々もいるかもしれない――が……。  近い将来、国鉄は民営化されて、JRという組織に生まれ変わるのだ。まあ組織の上がどう変わろうと、俺たち利用者にとっては、あまり影響ないのかもしれない。ただ俺が個人的に嫌だったのは、全ての車両に『JR』というマークが描き加えられたことだった。  男の子にありがちなことだが、子供の頃の俺は、鉄道に興味があった。親にせがんで鉄道模型も買ってもらっていたし、旅行や親の田舎に出かけた時には、見慣れない列車を見る度に写真を撮っていた。  今にして思えば、玩具としての鉄道模型の魅力の一つは、それがアニメや漫画のロボットとは違う、身近な現実の物であることだろう。それなのに、あの『JR』というマークのせいで、俺の所有する鉄道模型は、実際に自分が利用する車両とは微妙に異なるものになってしまった。  もちろん、自分で『JR』と描き込んだり、そういうシールを買ってきて貼る者もいたようだ。しかし「鉄道模型はプラモデルとは違って、完成された高価な玩具だから、子供が迂闊に手を加えてはいけない」という気持ちがあったため、俺には何も出来なかった。  それでもまあ、JR発足直後は、まだマシだったかもしれない。後々、電車の外観はさらに大きく変わっていく。以前はグループごとに色分けされていた電車が、パッと見では全て同じ銀色の電車――一部の地下鉄のように――という、味気ない感じになってしまうのだ。  あの銀色の電車、1985年なら、そろそろ国鉄でも一部の地域で登場する頃だよな? あれだって最初は珍しくて、むしろ貴重に感じたものだが、銀色ばかりになってしまうと……。その結果、俺――転生前の俺――の『趣味』の中から、鉄道模型は完全に消えて、全て物置にしまい込まれることとなるのだが……。  いやいや、これは、ここですべき話ではなかったかもしれない。まあ未来人のちょっとした愚痴だと思って、忘れてくれ。  この話で、もしも心に引っ掛かるものがあるならば……。あなたは俺と同じ未来人かもしれないから、俺は同志を見つけた気分になれるのだが。    
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