5人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
第二十三回 警部は語る・その十三
では、響谷君。話を再開するぞ。
ここからは、最後まで一気に語るつもりだから、心して聞きたまえ。
少し余談になるかもしれないが、私の予想に反していたのは、喫茶店での裏付け捜査だけではなかった。
理恵から家計簿のレシートを見せられた場面で、私は「どうせ店側では、いちいち客の顔だど覚えていない」と述べたが……。
あにはからんや。商店街は、町内会で顔見知りの個人商店が多いそうで、かなりの店で理恵が来たことを覚えていたよ。もちろん、町内会の会合に出席していたのも、間違いなかった。まあ、理恵の場合は、手の大きさから嫌疑の対象外になっていたので、これらは一応の捜査にすぎないわけだがね。
山田原正に関しては、会社で退社時刻に嘘がないことを確認した。一つ面白かったのは、彼の社内での評判だったな。家庭で妻の前では弱々しい子供みたいな態度だったのに、会社では「しっかりとした男で、真面目で有能」で通っているらしい。あれはどうも、ああいう扱いを理恵がするもんだから、家庭ではダメダメなんじゃないかねえ。
そんなわけで、ここまでのアリバイをまとめると……。
まず、山田原修。二十二日のアリバイは成立し、豪次殺しは不可能。だが二十三日のアリバイは成立せず、安壱殺しは可能。
山田原正は、ちょうど逆だ。二十二日のアリバイは成立せず、豪次殺しは可能。だが二十三日のアリバイは成立し、安壱殺しは不可能。
手の大きさから除外はしたものの、二人の妻に関しても一応、まとめておこうか。香也子は両方の事件に関してアリバイ成立、理恵は安壱殺しに関してのみアリバイ成立。
まあ、こんなところか。
次は、動機の話だ。
修の方は、自ら「店の経営不振で多額の借金が」みたいな告白をしていたが、調べてみると、正の方にも莫大な借金があると判明した。
正は、いわゆるギャンブル狂でね。パチンコ、競馬、競輪……。最初はビギナーズラックで軽く儲けて、そこからはまり込んだそうだ。まあ、もちろんビギナーズラックなど続くわけないので、その末路は「推して知るべし」だ。
ほら、理恵が言っていたろう? 「夫は時々、無性に一人になりたがる」って。元々そういう性格だったらしいが、最近ではそれを隠れ蓑にして、理恵に内緒でギャンブルに通うことが多かったそうだ。
この話を正から聞き出した時も「どうか妻には内密に!」と懇願されたが……。借金で首が回らなくなっても、なお隠し続けるとは、いったい何を考えているのだろう。悪さが親にバレて怒られるのを恐れる、小さな子供みたいな心境なのかねえ。
最初のコメントを投稿しよう!