第四回 姉の家にて・その三

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第四回 姉の家にて・その三

     俺が作ったのは……。  水で戻した乾燥わかめと、ありあわせの野菜を適当に刻んで、ご飯にぶち込み、最後に卵を落とした、お手軽な雑炊(おじや)だ。味付けも、粉末の出汁(だし)と醤油だけで、薄口に仕上げてある。  そんな簡単なものでも、腹が減っていたとみえて、姉は旨そうに()き込んでくれた。  ぺろっと平らげてから、姉は少し不思議そうな目を俺に向ける。 「いやあ、美味しかったよ。……ところで、(つばさ)。お前、いつのまに料理なんて覚えたんだい?」 「いやあ、最近ようやく」  と、適当に誤魔化すしかなかった。  まあ転生前の俺は、毎日ではないけれど、半分以上は自炊していたからなあ。 「じゃあ、右手の中指と左手の親指に出来たタコは、料理関連かい? フライパンを何度も握って……。いや、それよりも、食後の食器洗いかねえ」  言われてみれば、それらのタコは、俺が転生してきてから、この体に出来たものかもしれない。俺には、スポンジではなく自分の手で食器をゴシゴシこする癖がある。その影響なのだろう。 「頻繁に料理をするようになれば、その分、洗いものも増えるからねえ。どちらにせよ、ペンだこにしては変だと思ったんだよ」  姉は、軽い口調で言う。  それにしても、指のタコとは……。彼女は、かなり細かい部分にも目を向けているようだ。『ころしや探偵』と呼ばれて難事件を解決してきたのも、伊達じゃない。ひょんなところで、俺は姉の観察眼の鋭さを思い知らされた。  続いて姉は、ガラッと話題を変えて、 「汗が気持ち悪いから、シャワー浴びたいけど……。この熱では、まだ、やめておいた方がいいかねえ?」 「でしょうね」  俺は、姉の額に手を当てながら答えた。少しは元気になったようにも見えるが、まだまだ熱がある。 「じゃあ、翼。代わりに体を拭いておくれ」 「それくらい、自分で出来るでしょう?」 「熱がある時は、なるべく体を動かさない方がいいのさ」 「まったく。こういう時だけ、病人扱いを要求して……」  この響谷(ひびきだに)(あい)という人物は、弟に対して甘えん坊なところがあるのだ。少なくとも、元の『響谷(ひびきだに)(つばさ)』の記憶ではそうなっていた。    正直、転生前の俺には姉なんていなかったから――というより俺は一人っ子だったから――、姉との距離感というものは、よくわからない。  漫画やアニメや、小説やドラマから「もし姉がいたら」と想像するだけだった。もちろん、そうした創作物では色々と都合よく描かれているのだろうと考慮した上で。  だが。  そんな素人知識で考えても、この姉弟の関係は少し普通ではないと思う。  今。  ベッドに座った姉は、寝間着のボタンを外して、平然と、豊満な胸をさらけだしていた。 「じゃあ、お願いするよ。特にこの辺り、汗が溜まって気持ち悪くて……」 「はいはい。わかりました」  内心では思うところもあるのだが、何気ない態度を装って、タオルを手にする俺。  姉が『この辺り』と言っているのは、体の凹凸が激しい部分。その隙間に汗が留まって不快なのだろう。だが、上半身をはだけた状態で、体の凹凸が激しい部分といえば……。  普通、そんな部分を弟に触らせないよなあ? 姉と弟とはいえ、どちらも若い男女なのに。  こうした行為を恥ずかしがらないのが、愛と翼という姉弟の関係なのだ。こうして皆さんに話してみると、やはり俺には、これが『普通』とは思えないのだが。    
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