おはいんなさい

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おはいんなさい

 ばんご飯を食べおわるころ、しょうごくんがむしかごを持ってきました。 「おねえちゃん、セミ、動かん」  さらちゃんはどきっとしました。  灯りの下で見てみると、おなかが白くなっています。  信じたくなかったけれど、死んでしまったとわかりました。 「しょうちゃん……はやくにがしてあげたらよかった。セミ……死んでしもたよお」  さらちゃんはセミをさわってみました。  つかまえたときに指に伝わった、セミのブブッという動きを思い出しました。  セミはあの時、たしかに生きていたのです。  ごめんなさい……。  さらちゃんの目から、涙がぽたぽたこぼれました。  セミの上にも、こぼれました。 「あした、土にそおっと、うめてあげね。(あげなさいね) そしたら、土にかえるでの」  おかあさんが、さらちゃんの背中をなでました。しょうごくんもさらちゃんの頭をなでてくれました。 「いのちはつながってるんやよ」  さらちゃんは、長い長いひもで、でんしゃごっこをしているような気持ちになりました。その中の人がさそってくれたような気がしました。  おーはいんなさーい  おーはいんなさーい  そんな声がしたような気がしました。  その中には、しょうごくんも、さとしくんも、ゆうまくんもいます。おばちゃんもいます。  夜になってからきた、おとうさんやおじさんもいます。おかあさんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、大きいおばあちゃんもいます。そして、セミや知らないおじいさんや、おばあさんもみんないるのでした。  暗い夜の庭から、かえるや虫の鳴くのが聞こえました。    ジー、ゲコゲコ、カカカカカカ……。  きっとみんな、生きてるよ。元気だよって言ってる。  さらちゃんは、そう教えてくれてるんだと思いました。  ほんの少しだけ涼しい風が、その庭からふいてきました。  あした、おはかをつくってあげよう。  そしてセミのおはかにも、しおんの花をかざってあげようと思いました。
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