2人が本棚に入れています
本棚に追加
おはいんなさい
ばんご飯を食べおわるころ、しょうごくんがむしかごを持ってきました。
「おねえちゃん、セミ、動かん」
さらちゃんはどきっとしました。
灯りの下で見てみると、おなかが白くなっています。
信じたくなかったけれど、死んでしまったとわかりました。
「しょうちゃん……はやくにがしてあげたらよかった。セミ……死んでしもたよお」
さらちゃんはセミをさわってみました。
つかまえたときに指に伝わった、セミのブブッという動きを思い出しました。
セミはあの時、たしかに生きていたのです。
ごめんなさい……。
さらちゃんの目から、涙がぽたぽたこぼれました。
セミの上にも、こぼれました。
「あした、土にそおっと、うめてあげね。(あげなさいね) そしたら、土にかえるでの」
おかあさんが、さらちゃんの背中をなでました。しょうごくんもさらちゃんの頭をなでてくれました。
「いのちはつながってるんやよ」
さらちゃんは、長い長いひもで、でんしゃごっこをしているような気持ちになりました。その中の人がさそってくれたような気がしました。
おーはいんなさーい
おーはいんなさーい
そんな声がしたような気がしました。
その中には、しょうごくんも、さとしくんも、ゆうまくんもいます。おばちゃんもいます。
夜になってからきた、おとうさんやおじさんもいます。おかあさんも、おじいちゃんも、おばあちゃんも、大きいおばあちゃんもいます。そして、セミや知らないおじいさんや、おばあさんもみんないるのでした。
暗い夜の庭から、かえるや虫の鳴くのが聞こえました。
ジー、ゲコゲコ、カカカカカカ……。
きっとみんな、生きてるよ。元気だよって言ってる。
さらちゃんは、そう教えてくれてるんだと思いました。
ほんの少しだけ涼しい風が、その庭からふいてきました。
あした、おはかをつくってあげよう。
そしてセミのおはかにも、しおんの花をかざってあげようと思いました。
最初のコメントを投稿しよう!