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女性警官はようよう状況を飲みこんだようで、穏やかな笑顔を作って頷いた。でも、男性警官はまだ何か引っ掛かっているみたいだ。うすら笑いを浮かべて私とフグちゃんを見比べる。
「にしても、随分……カワイイ彼氏なんだねぇ」
「「!」」
失礼な!
私とフグちゃん、同時に男性警官を睨みつけた。
文句のひとつも言ってやりたくて拳を握るけど、相手は大人。それも警察官だ。機嫌を損ねて絡まれ続けるのも癪だし。ここはなんて立ち回るのが正解なんだろう。頭の中でグルグル考えていると……
「貴方はいつも一言多いんですよ!」
厳しい声音でキッパリと言ったのは女性警官だった。
「我々は安全の為の警邏が目的で、個人の感想を述べて喧嘩を売ってるわけじゃないんです!」
「いや、でも、疑わしいのは署まで連れて行って検査するのは規定事項だから……」
男性警官は両手を上げて、まあまあと同僚である女性警官を宥めるそぶりをした。短く嘆息して顔を左右に振った女性警官は、鋭く指を立てて男性警官の胸元を指す。
「余計な一言は規定事項ではありません! この子たちの様子を見るに、これが初めての状況ではないことは容易に察せられますよね? 我々が介入するのは違うと思いますが? 事件性無しとみて良いかと?」
「ああ……でも……」
更に何事か言おうとしている男性警官の前を遮るように立った女性警官は、私にニコッと笑いかけた。
「嫌な気持ちにさせちゃってごめんなさいね。頼もしい彼氏君に介抱してもらって、安全に帰ってね」
女性警官は、ほら、さっさと行く! と男性警官を急きたてて駅前の人ごみに紛れて行った。
制服の後ろ姿が完全に見えなくなってから、私とフグちゃんはほぼ同時に大きな溜息を付いた。
「多分、そうなんだろうなって思って、探したら……警察官と話してるんだもん。ビックリしたよ」
「私も、ドラッグやってると勘違いされるとは思わなかった」
顔を見合わせてまた、小さく溜息をもらす。
なんだか、ドッと疲れた。
「もう……大丈夫?」
「うん……なんとか」
ちょっと人が引けてまばらになってきた路地で、しばし気が抜けたように立ち尽くしていたけど、このままぼんやりしてるわけにもいかない。
家に帰らないと……。でも……。
「「あの」」
2人同時に声を出してしまい、思わずふっと口元が緩む。
「……ああ……っと」
「そちらからどうぞ」
「ええ? イルカちゃんは?」
「んー、ここで話すことではないかもだから……」
私の言葉を受けて、フグちゃん、ちょっと小首を傾げて呟いた。
「やっぱ、……チビだと舐められちゃうよね。イルカちゃん的には、どう?」
「……どうって」
そんなこと言われたって、身長なんて今すぐどうにかなるモノじゃないし、フグちゃんはフグちゃんなんだもん。それでいいじゃない。
でも、なんか……フグちゃんが言いたいのはそう言うことじゃない気がする。
「ボクの身長が伸びる可能性があるとしたら?」
「へ?」
言っている意味が分からなくて、目をパチクリさせてしまった。
私の脳裏でダイゴ氏がニカッと笑った。
―― 「タラタラしてたら伸びる背も伸びないぜ」
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