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見覚えのある角を曲がった途端、なにやら不穏な雰囲気が漂ってきた。
セルジオ氏のオフィスの重厚な扉越しに、興奮気味の女性の声が漏れ聞こえる。
「あらー、始まっちゃってるわねぇ」
先を行っていたドロシーが呆れ気味に呟いた。
「シルビアってば、最近セルジオに風当たりが強いのよー。陽にあたれないから何か足りないのかもね」
「陽にあたれない?」
私、思わず復唱してしまった。
そう言えば、シルビアさん、真っ白な白髪頭だった。
「だから、日常的に陽にあたらないといけないセルジオとは相性悪いのよ。なのに一々突っかかりに行くんだから、乙女心は複雑よね」
と、ドロシー。
ふと、セルジオ氏のオフィスのサンルームを思い出した。もしかして、あそこは日光浴の為にあったのか。
イグアナは草食性。ってことは、セルジオ氏はヴィーガン?
などと考え込んでいる間に、ドロシーは些か乱暴にオフィスの扉を叩いた。
「クライアントをお呼びしたわよー! ご案内していいかしらー?」
扉の内から、私は構わんが!と、聞き覚えのあるセルジオ氏の声がする。シルビアさんがなにか言ってたけど、ドロシーは構わず扉を開けた。
「やぁ、キミたち。久しぶりだね。どうぞそこへ掛けてくれ」
相変わらずパリッとした白いシャツを着て都会的で洗練された物腰のセルジオ氏が、扉のすぐ前に立って待っていた。
あれ? シルビアさんは? と思って見回したら、立派な書斎机の向こうのオフィスチェアにふんぞり返って座っているシルビアさんが目に入った。
だらしなく足を組み、不満顔のまま椅子を左右にクルクルと揺らしている。
部屋に入ってきた私たちに、チラリと一瞥をくれた彼女はギョッとした顔をして固まった。
「えっ? ああ? 君、フクダ君?」
フグちゃんの姿を認めて素っ頓狂な声を上げて立ち上がる。
「ああ、だから、君の考察は間違っていたんだと説明したんだよ。『百聞は一見にしかず』というのは、将にこれのことだな」
セルジオ氏は両掌を上に向けて肩をすくめ、ヤレヤレと言った調子で首を左右に振った。
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