引力

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引力

 フグちゃんちは「あざみ台」にあるらしい。私の使う最寄り駅、烏山公園駅と一つ先の雲雀(ひばり)ケ丘駅のちょうど中間だ。普段は、雲雀ケ丘から乗ってきていたらしい。電車は、烏山公園駅の二つ手前に当たる長元坊(ちょうげんぼう)ファミリータウン駅――駅名なげーよ。聞くからに新興住宅地って感じでカッコ悪――から大混雑になる。 「うちの近所から烏山公園駅行きのバス路線もあるから、そっち乗ればいいし、イルカちゃんの最寄りで待ち合わせしよ!」  とのフグちゃんの提案で、早速翌朝から一緒に登校することになった。  駅前のバスターミナルについて、ふと待ち合わせ場所に指定した駅の改札の方に目を遣る。あれ? 何やら騒がしい。駅の入り口に人垣ができている。何だろなーと思いながら脇をすり抜けようとしたら、人垣の中から手が伸びた。 「おはよ! イルカちゃん!」 「ええっ?」  ギョッとして見ると、人垣の中心はフグちゃんだった。人垣が割れて、そこをこじ開けるように出てきたフグちゃんは、私の右腕に縋りついた。  フグちゃんと、取り巻いていた人垣とを交互に見る。人垣の殆どは、登校途中の男子学生……? 彼らは私を一瞥すると、未練タラタラの視線を残して解散していった。 「どういうこと?」  彼らに声が届かない距離になってから、フグちゃんに耳打ちする。弱り切った顔をしたフグちゃんは、肩を落として溜息を付いた。 「いやぁ……普段使わない駅だからさぁ……。初洗礼と言いますか何と言いますか」 「洗礼?」 「『一緒にガッコ行かない?』って誘われちゃってさ」 「……はぁ?」  軟派? 朝から???  私は手にしたスマホの時間を見てから、フグちゃんと一緒に改札に向かった。 「雲雀ケ丘では、大騒ぎになったから寄ってくる人いないんだけど」 「大騒ぎ?」  馴れ馴れしく声を掛けられると言っても、限度というモノがあるだろうけど……。 「ボク、何か出てんのかなぁ……」 「さぁ……」  そんなこと言われても、よく解んないよ。  私はブレザーの胸ポケットから耳栓を取り出して両耳に押し込んだ。 
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