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電車の中では、フグちゃんを壁際に押し込んで私が盾になるようにした。
完全に彼女を護る彼氏的な配置。
私、何故だか痴漢とかに無縁の人なのよね。
高校の最寄り駅に到着すると、フグちゃんは目を潤ませて感動していた。
「すごい……快適……。明日もお願いしていい? てか、部活の朝練とか大丈夫?」
「文芸部に朝練は無い」
私の答えに、へぇー、とフグちゃんは目を丸くした。
フグちゃんは私と同じく鷽谷駅で降りる。
この駅の近くには、「鷽谷天神」という大きな神社があって、学問の神様が祀られている縁から、この駅周辺はちょっとした文教地区になっている。2つの大学、公立私立合わせて4つの高校の学生たちがこの駅を使う。フグちゃんが通っているのは、公立鷽谷総合高校らしい。
改札を出ると、私とフグちゃんはそれぞれ反対方向に別れることになる。
「じゃ、イルカちゃん、明日もよろしくね!」
元気よく手を振ると、フグちゃんは跳ねるように走っていった。躍るように左右に跳ねるサラサラヘアが人ごみに紛れて見えなくなるまで見送ってから、私は自分の学校に足を向けた。
駅前の交差点で信号待ちをしていると、後ろから声を掛けられた。耳栓をしたままだったことに気が付いて、さりげなく外しながら振り返る。
「ごきげんよう。蘇我さま。今朝も早くてらっしゃるのね」
クラスメートの高階綾香だった。いつものごとくハーブ系の優しい石鹸の香りを漂わせている。
「ごきげんよう、高階さま。今時分は比較的空いてますので」
「そうですわね。もう1、2本後ですと大分混雑がひどうございますわ」
信号が青になり、連れ立って歩き出す。
あ、そういえば……。
「高階さま、確か、最寄り駅が雲雀ケ丘ではありませんでしたか?」
「ええ、そうですわ。それが何か?」
高階さんは上品に小首を傾げてみせた。
「先日、知り合った他校の学生から雲雀ケ丘を利用していると聞いたものですから」
「ああ、そうですの?」
それが何か? と言いたげな顔。
うーん、えっとココからどうやって話を持って行けばいいのかしら。フグちゃんが起こした騒ぎとかの詳細を、もしかして高階さんが知っていればと思ったのだけど……。
「何か、駅でちょっとした騒ぎがあったとか……」
顔色を窺うように切り出したが、相手はキョトンとした顔をしたままだ。
「あら、そうなのですか? 申し訳ありませんが、……存じ上げませんわ」
高階さんは、眉をハの字にして肩をすくめた。私は慌てて顔の前で手を振る。
「いえ、いいんですのよ。……恐縮させてしまって、こちらこそ申し訳ないですわ。時間帯が違えば解らないことですものね。つまらない質問につきあわせてしまいました」
「まぁ……ご丁寧に。何か解りましたら是非お話いたしますわね」
高階さんは、ニッコリ微笑んだ。
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