ソガシオンの長い一日

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18:22  会議室のドアがノックされた。  一同の視線が一斉にそちらへ向く。 「あー、えー……何かね?」  学園長が声を掛けると、キッパリとした「失礼します!」という訪いの声が響いた。  え? 高階さん?  私は目をパチクリさせた。  会議室の扉の向こうに居たのは、キリリとした表情も厳しい高階さん……と、背後に控えるその他大勢! 「突然の来校、失礼いたしますっ!」  高階さんのすぐ後ろに控えていた背の高い男子生徒が、キビキビとした動きで前に出ると折り目正しく頭を下げた。初めて見る顔だ。 「私は鷽谷総合高校生徒総長、斑目岳(まだらめ がく)と申します。この度、貴校の生徒が我が高の学校祭に多大な助力をして下さったのにもかかわらず、充分なお礼も出来ないばかりか、事故で負傷させた挙句に黙って送り返すという非礼と不手際! 誠に申し開きが出来ません! 直ちに事故証明を作成し、事の経緯を弁明すべく馳せ参じました!」  会議室は水を打ったようにシンと静まり返った。  教務主任は、豆鉄砲をくらったような顔をして斑目総長を、そして私の方を見た。 「……どういうことなんですか? 蘇我さん、貴方は学園祭を抜け出してお付き合いしてる人のところに会いに行ったのではなかったのですか?」 「あの……」  私はフグちゃんと目配せした。  フグちゃんは小さく頷くと、キッと目に力をこめて顔を上げた。 「蘇我さんは、もともと、ボクの学校のコンペのファッションモデルとして来てもらう事になっていたんです。それが、こちらの学園祭と日程が被ってしまって、タイトなスケジュールで動いてもらわなくちゃならなくなってしまったんです。慣れないハイヒールで足首を痛めてしまったのは、ボクの責任です。蘇我さんは、コンペの関係者に迷惑を掛けたくないと思って、黙っていてくれたんです。けっして浮ついた気持で勝手に転んで怪我をしたわけじゃありません!」 「へ……はぁ?」   教務主任は視線を泳がせて、学校関係者たちを見た。 「怪我した時の目撃証言をするために私たち、ここに来たんです! みんな、蘇我さんの事を心配してたんです!」  総長を押しのけて前に出たのは松風さん。戸口に控えている大勢は皆、総合高校の家政科の面子だ。  学校関係者たちは、教務主任に冷ややかな視線を返す。  担任の丸岡先生が、大きな溜息を付いた。 「そう言うことならば、……蘇我さんの処分は考え直した方が良いのではありませんか? 先生方は、蘇我さんが『彼氏とイチャイチャしに行って勝手に怪我して帰ってきた』と思って憤慨してたんですから。ていうかー、この際言わせていただきますケドね、ギャーギャー騒いでた先生方って、大概が独身の女性教員でしたよね? ただのじゃないんですか?」 「やっかみですって?」  教務主任は血相を変えて立ち上がった。 「貴方だって独身でしょう!」 「いや、私は結婚を前提にお付き合いしている方が居りますから」  丸岡先生は涼しい顔でバッサリと切り捨てた。 「生徒を導くのに私怨を挟むのはいただけませんわ」 「私怨ですって? 私が生徒に嫉妬しているとでも?」 「嫉妬じゃなくて何なんですかね? 『彼氏に会いに行ってた』ってわかった途端にムッキーって逆上して、まーみっともない!」  オールドミスとピチピチ乙女のバッチバチの攻防に、影の薄かった学園長が忙しない咳払いで水を差した。 「あー、えー、蘇我クンの事故証明を改めましょう。はい」
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