打ち上げ

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 打ち上げの会場の重い防音扉を開けると、奥にステージを備えたフロアが目に飛び込んできた。ちょっとしたライブ会場にも使えそうな広さだ。  フロアの真ん中あたりにはお菓子や軽食を載せた大きな丸テーブルが3つ配置されて、壁際に丸椅子が並べてある。舞台の上にはファッションショーでお披露目した衣装が、それぞれトルソに着せられて飾られていた。  舞台のすぐ手前に配置したテーブルで数人のメンバーがソフトドリンクの準備中。フグちゃんは……というと、隅っこの丸椅子に腰掛けてイッチ氏と何やら談笑しているところだった。 「フグ! 言われたの持ってきてやったぞ!」  フグちゃんの姿を認めたダイゴ氏が、小脇に抱えた大きな包みを振り上げた。 「あ! ダイゴ……と、イルカちゃん!」  丸椅子からぴょんと飛び降りたフグちゃんは、急いでこちらに走ってくる。  私、慌てて息を止めた。 「イルカちゃんが来て嬉しいのは解るけど、まずはこっちだろ? 重いの持ってきてやったんだからさ」  不機嫌に文句を言うと、ダイゴ氏は私の前を遮るようにして大きな包みをフグちゃんに押し付けた。 「あーはいはい。ごめんなさい」  苦笑いを浮かべたフグちゃんが包みを受け取って舞台へ振り向き、私は大きく深呼吸をする。  平常心、平常心。 「あの包み、何ですか?」 「あー、アレね」  私の問いに、ダイゴ氏はニヤリと笑った。 「イルカちゃん初号機だよ」 「はっ?」  初号機?  舞台へ視線を向けると、包みを置いたフグちゃんが覆いを外しているところだった。中から現れたのは、……トルソ? 「学校にあったトルソは、ロイコ嬢たちに落書きされちゃったからさ、フグが家で作った試作のトルソを持ってきたんだよ」 「試作……?」  私、キョトンとした顔で、ダイゴ氏と舞台のトルソを見比べた。 「標準タイプのトルソにクッションとかパッドとか括りつけてさー。まぁ、その……」  言葉を濁してそっぽを向くダイゴ氏。肩を揺らして思い出し笑いをしてる。  まただ!  以前トルソの話をした時も、ダイゴ氏は言葉を濁して思い出し笑いをしていた。  一体何事?  私は、トルソにせっせとイグアナパーカーを着せつけているフグちゃんの方を見た。トルソは確か3Dプリンタで出力したものだ。
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