引力

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 当初は面食らったお嬢様学校の雰囲気にも、だいぶ馴染んできたし、切り替えも早くなった。だって、女子ばかリの学校に入ろうと思ったら、通学可能な距離の学校がココだけだったんだもの仕方がない。  まさか、自分の「特質」が原因で女子校を選択せざるを得なくなるなんて、普通思いもしないじゃない? 思春期の男の子の汗臭いにおいが駄目だなんて、考えもしないわよ。  小学校高学年の時、男子の下駄箱から漂う臭いで卒倒してからというもの、お年頃の乙女にはありがちな甘酸っぱい経験なんて、私には無理だと悟った。鼻には蓋が出来ない。お上品な中高一貫の女学校ならば、淡いシャンプーや石鹸の香りはすれども、目が痛くなるような激臭とは無縁だ。通学電車は比較的男子学生の少ない早い時間を狙い、心を無にして切り抜ければ、後は何とかなる。  お陰様で私のスクールライフは快適至極。 「あの、ちょっとスミマセン」  後ろからふと呼び止められた。 「ハシビロキャンパスって、この先でいいんですか?」  私は小さく溜息を付いて振り返った。  スマホを片手に心細げな顔をした学生らしき男子が立っている。その手にしたスマホの地図アプリを見ればわかるだろーよ、とツッコミを入れたくなるのをぐっとこらえて笑顔を作った。まぁ、初見の場所だと目の前の道路が何通りかすらも解らない時があるよね。 「えっと……ハシビロキャンパスは……」  言いかけた時に風向きが変わった。無防備だった故、ツンとした刺激臭をまともにくらってしまい、一気に胃の中身がこみ上げてくる。私は慌てて隣に立っていた高階さんに目顔でパスを告げた。高階さんは、目をパチパチさせた後、私の後を継いで学生に道を教えてくれた。 「蘇我さま、大丈夫ですの?」  学生が遠ざかってから、高階さんが心配顔をむける。私は何度も深呼吸しながら胸をなでおろした。 「大丈夫です。高階さま、助かりましたわ。ありがとうございます」  アレはヒドイ。メッチャ臭かった。  見た目……じゃないんだよなぁ。腋臭だとかも関係ないんだ。時々、全然ダメな男子がいて、それが近くにいるとホントに辛くて……。でも、こればっかりは私の個人的な反応から来るものだから、当人には言えないし……ハッキリ言ってめんどくさいんだ。  
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