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「イルカちゃん! 足は大丈夫?」
ふいに後ろから声が掛かる。
「あ、松風さん……」
振り返ると、真っ黒な髪をキレイに編み込んだ松風さんがニコニコして立っていた。ゆったりしたカーキのオールインワンを着て、肩先に白いニットのカーディガンを羽織っている。キレイにお化粧した顔は大人っぽくて、とても同じ年には見えない。
「痛みは引きました。……まだ走れませんけど」
私が答えると、松風さんはふいに吹き出した。
「やだなぁ……私にはまだ敬語なんだ?」
「あ、ええと……」
そうは言われても、どこから砕けた感じにしていいものやら見当がつかない。
「アーヤと同じように『たっつん』でいいよ!」
「ええ……、たっつん……さん?」
恐る恐る言うと、やだぁ! もー! と松風さんはケラケラと笑った。
「なんで『さん』を付けるかなぁ」
「あ……でも、急には……」
困惑して頭を掻く。
「いい意味でイルカちゃんて真面目なんだよな!」
ダイゴ氏が話に戻ってきた。
「ま、フグには丁度いいんじゃん?」
離れたところに居たイッチ氏もこちらの話の輪に加わる。
「……丁度いいって」
今度は私、イッチ氏に困惑の目を向けた。
「ちょっとちょっとー! ボクも混ぜてよ!」
トルソに服を着せかけたフグちゃんが慌ててこちらへ戻って来た。
躊躇うことなく私のすぐ隣に丸椅子を持ってきてちょんと腰掛ける。美味しい匂いが一気に押し寄せてきて、私、思わず椅子を引いてフグちゃんからちょっと距離をとった。
「?」
フグちゃん、顔をあげて不思議そうに私を見上げる。
その時、ニヤニヤ顔のダイゴ氏がこちらに話しかけた。
「おい! フグ! 初号機のこと、イルカちゃんにしゃべっちゃっていいか?」
「えっ? なんの話?」
目をパチクリさせて視線を向けたフグちゃんの反応を面白がるように、ダイゴ氏はちょっと肩をすくめて話を続けた。
「トルソにクッションとか巻き付けてさ、都度都度抱きついて調整してデータ取って……」
「ああああああああ!」
みるみる目を見開いたフグちゃんは、ダイゴ氏が最後まで言い切らないうちにスッとんでいって丸椅子ごとダイゴ氏を押し倒した。
椅子が弾かれたように床に転がり、ガランガランとまあまあ大きな音が響く。打ち上げ準備をしていた周囲の生徒が一斉にこちらを向いた。
「そういうこと、ダイゴから言うなってば! ドン引きされたらどうしてくれるんだよ!」
ダイゴ氏に馬乗りになったフグちゃんは、声を潜めて詰った。
力持ち? らしく見事なタックルをかましたフグちゃんだが、体格差ではどうにもダイゴ氏に勝てない。次の瞬間にはくるりと形勢逆転してしまい、いいようにあしらわれてしまう。
「まぁいいじゃんか! ラブラブなんだろ? ちゃんとアピールしてさっさとくっ付いちゃえよ!」
やすやすとダイゴ氏にネックロックを掛けられて、フグちゃんはふがふがと声にならない声を上げ始めた。
「タラタラしてたら伸びる背も伸びないぜ」
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