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打ち上げが終わった頃にはすっかり夜が更けていた。補導されちゃうような時間にはまだ早いけど、まぁ、生徒がぶらつくには感心しない時間帯ではある。
帰路につく人たちでそこそこ込み合っている駅前交差点で、私たち2人、所在無げに信号待ちをしていた。他メンバーがメチャクチャ気を遣って、お開きとなるや否や私とフグちゃんだけ打ち上げ会場から追い出したのだ。
「後片づけ手伝わなくていいって言われたけど、なんか申し訳ないなぁ……」
なかなか変わらない赤信号を睨みつけながら溜息を付く。
「うん……まぁ……」
歯切れの悪い相槌を打ったフグちゃんに、チラリを視線を向けた。俯き加減な所為で頭の天辺しか見えない。
なんかフグちゃん、自分のこと色々小出しにして全部は話してくれてない気がする。そりゃまぁ、必ずしも親の特性を引き継ぐわけでは無いし、隔世遺伝ってこともあるから可能性までは語れないにしろ、これからホントに……その「ミもココロも」……ってなるんだったら、解ってることはちゃんと知っておきたいし、私も言わなきゃいけないよなって思う。
そっか、言わなきゃいけないんだ……。
風向きが変わって、突然、フグちゃんの甘い香りが押し寄せてきた。
途端にアレコレを思い出してしまってボンと顔が火を噴く。
あああ……ちょっと、どうしよう、こんなとこで。
慌てて両頬を手で覆った。
「?」
何をか察して顔を上げたフグちゃん、私の顔を見てギョッと目を見開いた。
「あれ? イルカちゃん? ……ボク、触って……ないよね?」
コクコクと頷いて応える。
なんかね、こないだ気を失っちゃった時から、ホントにコントロールがつかなくなっちゃったみたいなのよ。
「ちょ……ゴメン。あの……少し離れていい?」
「え?」
「フグちゃんの、匂いに酔っちゃう……」
「は?」
「ゴメン、……落ち着くまで、ちょっと待ってて」
「えええ?」
困惑顔のフグちゃんを残して私、パタパタと駅と反対方向に駆けだした。
側に松風さんがいると、ニュートラルに戻れるから大丈夫なんだけど、フグちゃんと2人だけだとヤバい。もう、明日から一緒に登校するのも危ないかも。
母の言う通り「カップル成立」したらホントに大丈夫なのかな?
にしても、フグちゃんに一体何て言って持ちかけたらいいの?
―― フグちゃんの匂いを嗅ぐたびにムラムラしちゃってしょうがないから、一発やっておこっか?
なーんて、言えるわけがない!
角を曲がって交差点から視線が切れたところで、歩道の端に寄って一息深呼吸をした。走った所為で、余計に頬が紅潮している気がする。
あふれるヨダレを啜り込みながらショーウィンドウに映る己の顔を覗き込んで、ヤバいなこれ……どうしよう……と独り言ちていると、ふいに声を掛けられた。
「キミ、見たとこ未成年みたいだけど……」
ハッと顔を向けると、制服のお巡りさんが2人、ちょっと困ったような顔をして立っていた。
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