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「あ……はい。もう、帰ります」
警官に声を掛けられるなんて初めてのことだったので、挙動不審になりながら頭を下げた。心臓がバクバクしているけど、これ、フグちゃんの所為なんだか走ったからか、それとも警察官さんに声を掛けられて緊張しているからか全然わからない。
頭を下げた拍子に、ヨダレが垂れそうになって慌てて口元を拭った。
「体調が悪そうだけど、大丈夫?」
警官の1人が私の顔を覗き込んだ。制帽を目深に被って髪が短いから解らなかったけど女性警官みたいだ。
「え、あ、……大丈夫です。ありがとうございます」
言い終えて、下唇をペロリを舐めると、もう1人の警官が口元を歪めて腕組みをした。
「夜も遅いしねぇ。ここは学生街とはいえ、夜は繁華街でもある。無理はせず、少し休んでいってもいいんだよ」
辺りの喧騒を憚って顔を寄せてきた男性警官の体臭がメチャクチャ臭くって、私、思わず顔を歪めて身を引いてしまった。
途端に警官の眼光が鋭くなったのは気のせいじゃないと思う。
女性警官が私の前に立ち代わり、優しい笑顔を作った。
「んー、ちょっと浮ついてお酒を飲んじゃったとかではなさそうだけど……、やりすぎちゃうのはアルコールだけでは無いしね。見たとこ、このまま返すのはちょっと心配だったりするから、付いてきてもらっていいかな?」
「えっ? へ?」
アルコール?
私、烏龍茶しか飲んでませんけど?
アルコール以外でやりすぎちゃうって、何?
「私、なんか変ですか?」
口に出してから、いや、変だろ! と自分にツッコミを入れる。
変だけど、お巡りさんたちが想像するようなそういう変じゃないって言いたかったんだけど、……ええっと、この際何て説明したらいいのか判らない。
「そりゃもう……」
女性警官さんが、ニコリと笑って小首を傾げた。
「顔は紅潮してるし、落ち着きないし、さっきから何度も唇を舐めてるから……」
「ああと、これはその……」
うーん……。困った。
「私の……特性のせいで」
「……ふうん」
女性警官は身を引いて、胸ポケットから小型端末を取り出した。
「ID教えてくれる? 登録はしてあるの?」
あれ? 私、特性登録してあったかな?
臭いには敏感だけど、顕著になったのは大きくなってからだし、他の人に迷惑をかけるような特性では無いし、自分でナントカ出来てたから登録はしていなかったような……。
何も疚しいことは無いから、このまま交番まで連れて行かれたとして困ることは無いけれど交差点にフグちゃん待たせたまんまだ。って、またフグちゃんに近づいたら余計におかしなことになっちゃう。うーん……。
「あのー、ちょっと連絡していいですか?」
私、ポケットからスマホを取り出してかざして見せた。とりあえず、フグちゃんには連絡を入れておこうと思ったのだ。
それを見た女性警官の顔が、急に険しくなった。
「通信はちょっと待ってくれる?」
えー、なんか私、メチャメチャ疑われてる感じ?
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