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「おーい! シオン!」
ふいにフグちゃんの声がして、慌てて周囲を見渡した。私の視線の先を警官たちも目で追う。
やがて、警官の背中の向こうの人混みから、不機嫌顔のフグちゃんが姿が現れた。
「ほら!」
後ろ手からフグちゃんが放ったモノに警戒の色を露わにした警察官だったが、その正体に怪訝な顔をする。それは天然水のペットボトルだった。泡喰って辛うじてキャッチした私の手に、冷やッとした感触が広がる。胸元に抱え込むと火照った体に心地いい。
「あ……ありがと」
フグちゃんに「ちゃんと名前を呼ばれた」ことに驚きが隠せない。それも呼び捨て! 胸の奥がきゅぅーんとなって、……何? この体が痺れる感じ。
「ボクの彼女さんがどうしたんですか?」
警察官の2人の間に割って入るようにしたフグちゃんは、両人を交互に見上げた。目いっぱい怖い顔を作っているのが、何かカワイイ。
いや、ダメだ。
フグちゃんメチャクチャ真剣なんだろうから、そういう目で見るのは……。
「ああ……。彼女、様子がおかしかったので声を掛けさせてもらったの」
女性警官の方がフグちゃんに答えた。フグちゃん、口の端をクイッと上げて肩をすくめる。
「ご心配をいただいたのでしたら、ありがとうございます。でも、大丈夫です」
「えーと、キミは……」
男性警官は警戒の色を解くこと無くフグちゃんを舐めるように観察する。フグちゃんは、キッと目を剥いて警官を見上げた。
「ボクのID見てもらっていいですよ。彼女の体調不良はボクの所為なんですから、ボクが責任取って送ります」
「ええと、この子とはお知り合いなのね?」
女性警官が小型端末を操作しながら私に目配せをくれた。
「はい。フクダユウ君です」
OK! と女性警官は小さく頷いた。
「キミ、2回程案件に上がってるのね。その件で特性登録してある、と。なるほど……難儀な特性なわけだ」
難儀って言い方も無いと思うけど……。
私は内心ムッとした。
まぁ、確かに難儀なことになっているがヨソサマにそれを言われたくはない。
女性警官の言葉を受けて、男性警官は緊張を解いたように見えた。
「ゴメンな。こういう若い子が集まるとこでは脱法ドラッグも流行っているから、気になる子には声を掛けているんだ。一応、絶対そうではないという確認のために、署まで来てもらえるかな?」
え? やっぱ、そうなっちゃう?
不安を胸にフグちゃんに向くと、フグちゃんグッと口を引き結んで私に目配せした。そして、警官の方に顔を上げ、すうっと息を吸いこむと猛然と抗議を始めた。
「は? どういうことですか? ボクの所為だってわかってるのに? 何のための特性登録なんですか? また、親呼び出しとかなるの勘弁して欲しいんですけど!」
キッパリとした声で食ってかかる勢いのフグちゃんに、通行中の人々もびくりとして何人かが思わず足を止める。警察官2人は顔を見合わせ、続いて私の方を見た。フグちゃんからもらった冷たい水を飲んで、ちょっと落ち着いた私の様子にしばらく逡巡する仕草を見せる。
「もう、大丈夫なの?」
「はい! 平気です。落ち着きました」
私、さっさと解放されたくて、なるべく元気よく返事を返した。
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