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久しぶりにやってきた生体研究所。
相も変わらずホテルのロビーにしか思えないカウンセリング棟の瀟洒なエントランスに立つと、早速と件の受付嬢が姿を現した。
「いらっしゃい。おふたりさん」
四頭身オバサンのドロシーは、いつものようにグレーのグリップボードを抱えてニコニコしている。
「「お久しぶりです。ドロシーさん」」
2人でぺこりと頭を下げると、ドロシーは目を見開いて大袈裟に驚いて見せた。
「あら! 去年会ったきりなのに私の名前を覚えてらしたの? 光栄だわ!」
そりゃー、インパクト大ですもん。忘れようがない。
それよりもなによりも、それがドロシーの特性だと知ってはいても、ほぼ1年前に数分のやり取りをしたに過ぎない私たちと、まるで旧知の仲であるかのように接することの方が驚きだ。
「子どもの成長は早いわねぇ。羨ましいわ。もはや『チッチとサリー』っていうより『ダフニスとクロエ』ねぇ。素敵だわぁ」
ウットリとしているドロシーに、私とフグちゃんは顔を見合わせた。
また新たな渾名が発生したらしい。
ドロシーはくるりと踵を返して、ついてらっしゃい、と促した。
「セルジオは、今回、カウンセリングの終了の為におふたりさんを呼んだのに、シルビアが『データがまとまってない』って発狂しているから、ちょっと面倒くさいことになるかもよ」
「データ? シルビアさんは何が知りたいんでしょう」
フグちゃんが怪訝な顔で訊くと、ドロシーは背中を向けたまま首を振った。
「さてね。自分が下した考察が間違ってたことが許せないらしいわよ。全く、ロマンスを科学で分析しようなんて、野暮天もいいとこよ。彼女には人間的な情緒というモノが足りないのだわ。コレだから研究者って代物はイケ好かない」
リカルド ―― 青山理事曰く、特性ゆえに普通の社会生活を送れないから研究所内の教育施設を経てここに居るらしいドロシーだけれど、言っていることは目茶苦茶知性的だ。
ホントに「難しいことはわからない」のかな。
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