ある朝の出来事

3/3
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/130ページ
 途中下車になってしまったので、事務所を出てから再びホームに上がった。ラッシュの時間帯から1時間以上が過ぎ、ホームは大分空いている。これくらい空いている時間が登校時間帯だったらどんなに楽か。  私は学校最寄り駅に降りたら丁度階段の前に来る車両のドアの所で、次の電車を待つことにした。  あー、一限終わっちゃったなぁ……。  スマホの画面で時間を確認していると、ふいに後ろから声をかけられた。 「あの! さっきはありがとうございました」  振り向くと、サラサラヘアの女の子が立っていた。 「あ、……ああ」  私は、視線を泳がせて何と返事をしたらいいのかと言葉を探した。 「ごめんね。なんか、あんまり役に立ってなかった? みたいな?」 「ううん。逃げ場を作ってくれたの、とっても嬉しかったし、事務所までついてきてくれたの、凄く心強かった……です。あの、お詫びに何か奢らせて?」 「ああっと……でも、これから学校……」  私はスマホを取り出した。 「なんかSNSやってる? アカウント交換しとこうか」 「うん。喜んで! ……えっと、ボク、フクダ ユウ。アカウント名は『河豚(ふぐ)ちゃん』になってる。よろしくね」  ユウはスマホ画面を忙しなく操作しながら自己紹介をした。  え? この子、ボクっ子なの? 初めて観測したわー。 「私は、ソガ シオン。アカウント名は『海豚(ハイトゥォン)』」  「ハイ……トン?」  私の応えにユウが首を傾げるので、SNSのプロフを開いて見せた。 「え? 『海豚』って書くの? ……これって、イルカ?」  目を丸くしてスマホ画面をのぞき込む。 「そうそう。よく解ったね。ソガさんのはまんま『河豚ちゃん』なんだ?」 「えー! やだぁ……奇遇」 「ホント、繋がり!」 「でもぉ、何で中国語読みなの?」 「あ、……それはねぇ」  無邪気な突っ込みに私は鼻の頭を掻いた。 「中二病……的な?」 「お! いい! そういうの! ねぇ、ボクたちアカウント名で呼び合わない?」  フグちゃん(ユウ)はニコッと笑った。口元にチラリと覗いた八重歯がカワイイ。  ふいに、改札へ降りる階段の方から女性の悲鳴と男性の大声が聞こえた。え? とそちらに振り向いたが、丁度構内アナウンスが電車の到着を告げた。 「ええっとぉ……、イルカちゃんの学校はどこ?」  フグちゃんの質問に私は、ああ、と向き直る。  気にはなったけど……、ま、いっか。 
/130ページ

最初のコメントを投稿しよう!