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信号待ちの列の正面に立っていたのは、背中の広いお兄さん。頭に生えてる羊の角は本物かしら。そんな立派な物が生えていたら、そりゃぁ肩が凝りそうだもんね。首から背中の筋肉が発達してて然るべきだ。
「ああ……あのぅ……」
視界の外から声を掛けられた。いつもの事かと思いながら、そちらに視線を向ける。
「はい。どうされました?」
私の後ろに立っていたのはカメみたいな顔つきの小柄な高齢のご婦人だった。
「コインロッカーはどこかのぅ」
見ると、キャスター付きスーツケースを引いている。どうやら旅行客っぽい。
んと、その大きさだと……。
頭の中に、ここらへんの地図を展開する。
「そこの駅に入ったら、コンコースを右手に行ってください。赤い自動販売機の向こうに大きな荷物を入れられるコインロッカーがあります。入ってすぐ見えるコインロッカーは、大き目のロッカーを備えてませんから、そのスーツケースが入らないと思います」
「ああ……ありがとうねぇ」
ご婦人は目をシバシバさせると、自分のポケットを探り始めた。
「こんなものしかないけど、受け取ってくれるかしら」
取り出した飴の包みを私の手に握らせる。丁度歩行者信号が青に変わり、人が動き出した。ご婦人はペコペコ頭を下げながら人ごみに紛れて行った。
「すっごー、イルカちゃん、案内嬢みたいな人?」
隣に立っていたフグちゃんが目を丸くしている。
「案内嬢って言うかね、みんな私に道を聞きに来るから自然と周囲を把握する癖が付いちゃたの」
「わー! それって、アレ? 『道聞かれ顔』ってやつ?」
「まーまー……そんなもん?」
私はフグちゃんと連れ立って歩き出した。ご婦人から頂いた塩飴を一つ、フグちゃんにもどうぞ、と差し出す。片手で謝意を表しながらそれを受け取ると、フグちゃんは口を尖らせた。
「……それって、お年頃になってから?」
「ううん、違う。昔っからだけど……?」
「……そっかー」
フグちゃんは深く溜息を付いた。
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