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フグちゃんが連れて行ってくれた甘味処は『泡輪』ってとこだった。抹茶の「泡泡フロート」がメチャ美味しいと噂のオシャレカフェ。昔ながらのちゃんとした甘味も充実してて、貴重な赤豌豆を使った蜜豆は、なかなかいいお値段……。
「ねー……。和菓子系がいいって言ったけど、ここ、ちょっと贅沢すぎなんじゃ……?」
爽やかな水色に染め抜いた麻の暖簾がかかっているお店の入口で躊躇してたら、フグちゃんがニンマリ笑って首を振った。
「心配しないで。バイト代入ったばかりだからさっ。それにぃー、こういう贅沢なモノ、理由がなきゃなかなか食べらンないでしょ?」
暖簾を跳ね上げて引き戸をカラカラと開ける。しっとりと落ち着いたお座敷風の店内は、思いの外若い女性客でいっぱいだった。
ちょっとびっくりだわ。ここ、普通のテーブル席じゃないんだぁ?
上がり框で靴を脱いで下駄箱に入れると、年配の女性店員が「お好きな御席にどうぞ」と声を掛けた。私たちは奥の方の席に落ち着いた。脚が下せる掘りごたつみたいな席だ。
「ここねー、夜は居酒屋さんなんだってさぁ」
メニュー表を広げながらフグちゃんが言った。通りで、普通のカフェの内装っぽくないわけだ。
「んで、足臭い子には鬼門ってわけ」
メニュー表の向こうから、悪戯っぽい目がキョロリと覗く。
「……?」
私は目をパチクリさせた。
いや、そうかもしんないけど、ほぼ初対面に言うセリフでは無いわな。
取りあえず、私の足は臭くない。それは、臭いに敏感な自分が言うんだから間違いない。
「ボク、ミニ泡泡フロートと蜜豆っ。イルカちゃんは?」
「私も同じのを」
「りょーかぁい! おねーさーん!」
フグちゃんは手を上げて店員を呼んだ。
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