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「イルカちゃんってぇ、中高一貫の桃園なんだね? すっごい! 頭いいの」
届いた泡泡フロートを突きながら、フグちゃんが感心したように言う。
「ああ、ええと……」
あえて中高一貫の女子高にしたのには理由があるんだけど……、まぁ一々説明することではないよなぁ。私は苦笑で返した。
「なんで?」
フグちゃんはそこをド直球で突いてきた。
「……え?」
よく知らない相手にずけずけと言われるのには慣れていない。私は言葉に詰まってフグちゃんを見つめ返した。フグちゃんはその視線を受けて、質問を重ねる。
「言いにくいのかもだけど……『特性』に関係ある?」
その目は真剣そのもので、興味本位や冷やかしとは違う表情だった。
「……あー」
つい、言葉を濁した。
その時点で「イエス」と言っているようなものだ。しばし考えてから、私は腹をくくった。
「普通の人より、ちょっと敏感みたいなんだよね。母似らしいんだけど、特に臭いと音が駄目で。……実は、いつも電車の中では耳栓してて、今朝もスマホ画面を見せてくれたから解ったけど、話しかけられてたら咄嗟に反応できなかったかも」
「ふうーん。そっか……。そういうのだったら、生まれつきだもんね」
フグちゃんは、ふうっと溜息を付いた。そういえば、さっきの信号待ちの時何か言いかけてたよね?
「フグちゃんは?」
「あー、……ボクはぁ」
フグちゃんは視線を泳がせながら言葉を探しているようだった。
「『特性』なんだかどうなんだかよく解らないんだけどぉ、最近……なんだか色んな人に馴れ馴れしく声かけられるようになったんだよねぇ」
「……」
ん? それだけ?
「こんなんなるんだったら、ボクも学校、考えておくんだったのに……」
「……???」
そんなに困るほど周囲の人が馴れ馴れしくなるの?
「ねぇ、イルカちゃんって、いつも今朝の時間の電車に乗る?」
「えーと、今朝はたまたま。いつもは、もう一本早い電車だよ」
「……ねぇっ!」
向かいに居たフグちゃんが急に立ち上がってコチラに顔を近づけた。
「明日から、一緒に電車に乗ってくれないかな?」
「はぁ?」
「人助けだと思ってさっ! お願い!」
必死の形相のフグちゃんに迫られて、私はゴクリと息を飲んだ。
なんだろ。毎朝痴漢にあってたとかなのかな……。
「フグちゃんが、一本早いので行ってくれるなら、いいよ」
フグちゃんの表情がパアァッと明るくなった。
「よかった~! 帰りは何とかなるんだけど、朝が大変だったんだ」
大変? やっぱ、痴漢? かな??? 大人しい清楚系だもんね、フグちゃん。
「ああ、うん。よろしくね」
その時は、新しいお友達が出来たなぁ……くらいの感覚だったんだよね、私。
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