① messenger/リンキンパーク

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 そして2021年も6月に入り、数日が経った。  ある日の午前中、俺は病棟5階フロアのゴミ回収に向かった。  すると、5階北エリアに入る自動ドアの前に老人が立ち尽くしていた。病院服を着ているから患者だろう。男性だ。  見ると、左右の手が売店で買った品物で一杯だ。いつの間にかコンビニなどでビニール袋をくれなくなり、買い物をしてエコバッグなどを持っていないと、こんな風になる。  その老人は自動ドアが開くのを待っているようだった。  だが、それでは開かない。  コロナが蔓延すると、病棟の各フロア出入り口の自動ドアは閉められるようになった。以前は開放され、誰でも出入りができていた。今は簡単に進入できないようになっている。  各フロアの通行は、認証カードが必要になり、もちろん医師、ナースや俺達のような医療作業者には配布されているが、入院患者は無い。希望的にナースや医師の許可なく出られないのだ。  その老人は何故か、“外”に出ていて、自動ドアが開くのを待っている。出た時はナースなどに開けてもらったのだろう。  なので、戻る時には、自動ドア横のインターフォンを押し、フロア内のナースなどを呼ぶしかない。  この老人は、自動ドアに張ってある「御用の方は壁のインターフォンを押して下さい」というポスターが目に入ってないのだろう。自動で開くと思っているようだ。よくあることだ。  それを後ろから見た俺は、首から吊るしてある自身の認証カードを出して、自動ドアを開けようと、声をかけつつ、近付いた。  「い、今、開けま…」と言ったが、それに気付かない老人は、何と、足で自動ドアを蹴った。  「…やい! 閉め出す気かぁ!」  老人は怒鳴った。しかもマスクをしていない。  こんな患者もたまにいる。  おそらくドアの奥に本人の病室があり、戻りたいのだ。自動ドアが“自動”で開くと思っていたのだろう。  両手が売店の荷物でふさがっていて、使えないないのもあり、頭に来て、足が出たのだ。  この老人にしたら、「閉め出された」ような感覚になり、癇癪が爆発したのだろう。大きな怒声だった。  俺は比較的優しく老人に声をかけた。  60才程の男性だった。  「あ、だ、大丈夫で、ですよ。い今、あ、開けますねー」と俺は背後から声かけしながら、おじいちゃんと自動ドアに近付いて、インターフォン下のタッチパネルに自身の認証カードを近付けようとした。  「…」  そのおじいちゃんが横を向いて、俺を見た。  俺は驚嘆した。  それは村木だった…。
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