① messenger/リンキンパーク

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 何故、怪我している。  何故、ここに入院しているのか。  また襲撃されたのか。  1ヶ月前に、大村、立原と揉めていたのは関係あるのか。あの時は健康そうにだった。今は明らか怪我をしていた。大村と殴り合ったか。まさか鶴田らと殴り合ったか…。あの腰抜け爺さんにそんな度胸があったのか…。いや、また“ツンツン”らに何かして…。  「…あのぅ」  気が付くと、俺は自動ドア前に佇みすぎていた。後ろから看護助手の若い女の子が声をかけてきた。  「す、すいま、せせん」  俺は慌てて、カートを牽いて5階北フロアに入った。  気が付くと、村木の姿は病室の方に消えていた。  俺はお化けに出会ったような気がしていた。  そして、奇妙な事が続いた。  その日の仕事が終わり、俺は駐輪場に停めてある原付なに跨がった。帰りにガストに寄り、またドリンクバーで時間を潰そうか、などと思っていた。  「おい、あんた!」  急に背後から声がかかった。甲高い声だった。  振り返ってみると、小さなおじいちゃんが自転車を手で押しながら、俺を睨んでいた。  (…コイツは、狩野、だったかな?)  いきなり怒鳴られて、瞬間的に頭に血が上りかけたが、相手が狩野と分かり、驚いた。  コイツは去年、俺の親父にオートレース場で金を貸し、後に数倍に額を膨らませて俺に請求してきたバカである。  この近所に住んでいる。  俺は、逆に脅してやった。  何故なら、このチビおじいちゃんは、村木や原さんの仲間であり、俺を“攻撃”したい村木の命令で俺を脅してきたからだ。  俺が脅すと、このチビおじいちゃんは引き下がったが、また何か“因縁”を付けにきたのか  改めて、俺の中に怒りが沸いた。  今日の俺は現場で吉井のBBAにごちゃごちゃと文句を言われ、虫の居所が悪かった。  「な、何だよ、チビ。てめえは、は?」  「ち、ちょっと待ちなよ、兄ちゃん…」  狩野のチビおじいちゃんは何故か、怯んだ。  「何がだ、こ、このや野郎。な、何か、用か?」  非力な俺だが、こんな老人に強きに出れる。  「ち、違うよ、兄ちゃん!」  「だ、だから、何がが、だ?」  「ワシは悪くない。違うんだ。思い違いしたら行かんぞ?」  狩野は右手を前に出して開き、こちらを抑えるような仕草を見せた。  「…何の、は、話だ、だ?」  俺は、意味が分からなくなった。  駐輪場の横を看護士らしき女性がこちらを見ながら通っていく。口論かと思ったのか。  「ワシは、頼まれていただけだから…」  狩野は仕切りと言い訳のような事を言うが、何の話か理解出来ない。  「だ、だから、な、何の話だ?」  俺は少しトーンを上げて、原付を引き出しつつ、さらに怒鳴った。  「さ、さっきからな、何のは、話だよ!?」  「ワシは、頼まれたんだ!」  「は?」  全く要領を得ない。『頼まれた』とは何か。  俺の中に今日の村木の姿が浮かんだ。  「とにかく、ワシは無関係。…わかった?」  「は?」  何だ、こいつは。こっちの事などお構い無し。一方的に自分の主張して「わかった?」とは何だ。  久しぶりに本格的に頭にきた。  俺は原付のエンジンバーをキックして、起動させた。原付が鼓動を始める。ここから離れようと思った。  もうこんなおじいちゃんの妄言に付き合い切れなかった。  狩野は、その音に慌てた。牽かれると思ったようだ。  「とにかく、ワシは言ったからなー」  狩野は自分の自転車を反転させ、駐輪場から飛び出た。  それで猛スピードで北の方に漕いでいった。速い。  俺は呆然とそれを見送ってしまった。  狩野の自宅はわかっているが、もちろん行く気はない。詰める気もない。というか、理解できなかった。  俺は怒りが渦巻いたままの気持ちを抱え、ガストに向かう事にした。  今日、5階で見た村木の事が頭に浮かんだ。関係あるのだろうか。
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