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そして、俺は最大の謎について尋ねた。
『何故、村木は「半グレに襲われた」と俺に嘘情報を流したのか?』である。
それを尋ねると、鶴田は俺にまた尋ねて返してきた。
「鈴木くん、もう村木さんと仲直りしたんじゃないの?」
「は、はあ?」
そんな事は無い。あれから俺と爺さんは廊下ですれ違うと、あの無愛想(元)板前のように無視しあっていた。
鶴田には、解雇後の村木の情報が無いようだった。
これ以上、彼女に聞くことは無い。
「あ、ありがと、さ、さん」
俺は鶴田を解放した。そして、改めてマスクを付けた。
鶴田は安堵した顔をした。俺に嘘をついていた事でずっと良心の呵責に囚われていたらしい。
村木の認知症には心配そうだった。認知症を患う夫を持つ彼女には、その介護の苦労を知り抜いているのだろう。
この鶴田の家族は元通りになったのか。
宮本、青沼は親父さんの元に戻ったのか。
もう鶴田は鶴田ではなく、宮本姓なのかもしれない。
それは俺の知らない話だ。訊きたいが、止めた。鶴田には鶴田とその家族がある。俺が介入しなくても良いだろう。
「…どうも、も。それじゃ、さ、さよな、ら…」
同じ病院で働いているのに、まるで今生の別れのような言葉をかけてしまった。
鶴田は何かを返したが、よく聞こえなかった。
俺は、鶴田の家庭がおかしなスピリチュアルカウンセラーのせいで崩壊したのを知っている。
認知症の夫、離婚した息子夫婦…。
今は元に戻って、寄り添って生きているのか。
もう俺には関係の無い事だ。
同じ病院(職場は隣)たが、もう2度と顔を会わせない感じかした。
家族と幸せになり、パワハラをしていた村木がいなくなったのなら、鶴田は前より働きやすくなるだろう。
俺の頭の中に昔聴いた『messenger』という洋楽の歌詞が流れていた。
They'll be your guide back home。
家に戻って来れるように道を案内してくれるだろう。
俺の“道案内”はもう終わっている。
というか、したかな。
鶴田は“家”に帰れただろう。
それが一番だ。
あのカウンセラーと、その“弟子”の占い師にはもう会いたくもない。
とにかくこれで、去年の村木の襲撃は虚言だった事が分かった。
ただ、鶴田にも尋ねた『何故、村木がそんな嘘を流したのか?』という事は謎のままだった。
これは村木自身に直接尋ねるのが早いが、認知症の村木に尋ねるのは気が引ける。俺の事も覚えてないようだ。
ならば、村木が襲ったと考えていた“半グレ”の奴らに尋ねるしかない。
真里谷は村木への襲撃は否定したが、村木との関係は否定しなかった。
去年のスマホ強奪計画、病院個人データ盗難計画、それに俺の親父への襲撃に際して、アイツらと村木の間に何かあったのだろうか。
もうあんな奴らと関わりたくも無いが、仕方ない。
しかし、どこにいるのか、俺は分からない。 俺はアイツらの連絡先など知らない。
(なら、知っているのは…)
俺の“元カノ”の奥山晶(アキラ)と、その“仲間”の司馬だ。
これまた会いたくない奴等だ。
特にアキラは、固くなに真里谷らとの関わりを俺には否定するはずだ。
ならば、司馬だ。
司馬正直。
去年、コンビニで短い期間ではあるが、同僚だった若者。コイツとアキラに振り回され、俺はパーキングで大立ち回りして、慶太郎、会らと断絶する羽目になった。
…半分以上は俺の責任だが。
嫌な思い出だ。苦々しい。それで小塚とも最近は大木屋で会っていない。
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