① messenger/リンキンパーク

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 そして、俺は最大の謎について尋ねた。  『何故、村木は「半グレに襲われた」と俺に嘘情報を流したのか?』である。  それを尋ねると、鶴田は俺にまた尋ねて返してきた。  「鈴木くん、もう村木さんと仲直りしたんじゃないの?」  「は、はあ?」  そんな事は無い。あれから俺と爺さんは廊下ですれ違うと、あの無愛想(元)板前のように無視しあっていた。  鶴田には、解雇後の村木の情報が無いようだった。  これ以上、彼女に聞くことは無い。  「あ、ありがと、さ、さん」  俺は鶴田を解放した。そして、改めてマスクを付けた。  鶴田は安堵した顔をした。俺に嘘をついていた事でずっと良心の呵責に囚われていたらしい。  村木の認知症には心配そうだった。認知症を患う夫を持つ彼女には、その介護の苦労を知り抜いているのだろう。  この鶴田の家族は元通りになったのか。  宮本、青沼は親父さんの元に戻ったのか。  もう鶴田は鶴田ではなく、宮本姓なのかもしれない。  それは俺の知らない話だ。訊きたいが、止めた。鶴田には鶴田とその家族がある。俺が介入しなくても良いだろう。  「…どうも、も。それじゃ、さ、さよな、ら…」  同じ病院で働いているのに、まるで今生の別れのような言葉をかけてしまった。  鶴田は何かを返したが、よく聞こえなかった。    俺は、鶴田の家庭がおかしなスピリチュアルカウンセラーのせいで崩壊したのを知っている。  認知症の夫、離婚した息子夫婦…。  今は元に戻って、寄り添って生きているのか。  もう俺には関係の無い事だ。  同じ病院(職場は隣)たが、もう2度と顔を会わせない感じかした。    家族と幸せになり、パワハラをしていた村木がいなくなったのなら、鶴田は前より働きやすくなるだろう。  俺の頭の中に昔聴いた『messenger』という洋楽の歌詞が流れていた。  They'll be your guide back home。  家に戻って来れるように道を案内してくれるだろう。  俺の“道案内”はもう終わっている。  というか、したかな。  鶴田は“家”に帰れただろう。  それが一番だ。  あのカウンセラーと、その“弟子”の占い師にはもう会いたくもない。  とにかくこれで、去年の村木の襲撃は虚言だった事が分かった。  ただ、鶴田にも尋ねた『何故、村木がそんな嘘を流したのか?』という事は謎のままだった。  これは村木自身に直接尋ねるのが早いが、認知症の村木に尋ねるのは気が引ける。俺の事も覚えてないようだ。  ならば、村木が襲ったと考えていた“半グレ”の奴らに尋ねるしかない。  真里谷は村木への襲撃は否定したが、村木との関係は否定しなかった。  去年のスマホ強奪計画、病院個人データ盗難計画、それに俺の親父への襲撃に際して、アイツらと村木の間に何かあったのだろうか。  もうあんな奴らと関わりたくも無いが、仕方ない。  しかし、どこにいるのか、俺は分からない。 俺はアイツらの連絡先など知らない。  (なら、知っているのは…)  俺の“元カノ”の奥山晶(アキラ)と、その“仲間”の司馬だ。  これまた会いたくない奴等だ。  特にアキラは、固くなに真里谷らとの関わりを俺には否定するはずだ。  ならば、司馬だ。  司馬正直。  去年、コンビニで短い期間ではあるが、同僚だった若者。コイツとアキラに振り回され、俺はパーキングで大立ち回りして、慶太郎、会らと断絶する羽目になった。  …半分以上は俺の責任だが。  嫌な思い出だ。苦々しい。それで小塚とも最近は大木屋で会っていない。
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