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病院から帰宅し、俺はスマホの無料通信アプリを立ち上げ、『シバ』のアイコンを押した。
文字を打とうとして、指が止まった。
何とメッセージを送れば良いのか。
『真里谷らに訊きたいが事があるから、連絡先教えて』
そんな事を司馬が素直に教えてくれるだろうか。彼は、真里谷らの元仲間であるが、散々利用され、かなり嫌っている。もう関わりたくないだろう。連絡するのは俺だとしても、果たして教えてくれるだろうか。
仮に教えたとして、俺が真里谷に連絡するのか。
で、いきなり「村木の爺さんと何があった?」などと訊いて、あの真里谷が真実を言うだろうか。
あり得ない。
またせせら笑いを聞かされ、小馬鹿にされて終わりだ。金銭を要求される可能性もある。
あの“優男”に小馬鹿にされたくないし、金も払いたくない。
(…ダメだ、こりゃ)
俺は諦めた。
他の手を考えようか。
無料通信アプリを閉じた。だが、他に宛が浮かばなかった。
俺に思ってもいない人物からメッセージが来たのは、東京五輪が無観客での開催が決まった6月21日だった。
月曜日だった。帰宅するとテレビニュースが「東京五輪、無観客開催」を仕切りに報じていた。新型コロナの“デルタ株”とやらが盛んに言われている。「大丈夫か?」「開催するべきか?」と昼間もワイドショーのコメンテーターが論じまくっていた。
もうロゴも決め、実行委員会の“お爺ちゃん”を“老害”で退場させ、聖火リレーまでして、 「やるのか?」はないだろう。
どうもこの国の連中は「責任」という言葉が大嫌いらしい。
その時、俺のスマホが鳴った。無料通信アプリのメッセージ着信を知らせる小さな音だった。
画面を見てぎょっとした。
『会 陽一郎(派遣)』
会だ。
去年、パーキングでの乱闘で断絶してから、全く連絡を取っていない。俺に怒っているはずだ。
それが半年が経って、何だ。何の用だ。
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