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「そ、そうだよ。お、俺もか、金なんて無いさ…。お前らは、そのは、腹いせに、そのじ、じいさんを、また襲ったん、んじゃ…」
「だから、何の話だよ。俺らは確かにあの“しょんべん爺さん”に会って、アンタの事を聞いたし、アキラ姉さんからも聞いた。…だけどそれだけだ。意味わかんねーことほざくなや!」
山内はそういうと俺を睨んだ。
村木の襲撃は違うらしい。
これで鶴田の話は確定した。村木は去年の秋の時点ではまだ襲われてはおらず、そういう風に鶴田を使って、俺に嘘をついたのだ。何故だ。
「さ、最近、あのこ、腰抜け、け、爺さんが、が、大ケガし、したんだけど、お、オマエら、やったのか、か?」
「は?」
「お前ら、襲った、たのか?」
「だから、もう知らねえよ。アンタの事もも爺さんも! たぶん、ウエさんらにやられたんじゃねえの? あの人、怖いからな」
そう言って、嫌らしく山内は笑った。
さっきも出た、その「ウエさん」とは誰だ。
「お、お前ら、あ、あの爺さんと、は、はなしたの、のか?」
「あー。少しだけな。ウエさんに相談したら『浜松に知り合いがいる』って言われて、しかもアンタと同じあの病院で働いているってな…」
「そ、そんなら、“その爺さん”から、ら、“データ”、う、奪えば、よ、良かったた、だろ?」
俺は疑問を口にした。
「うるせぇな。ウエさんの知り合いなんだから、そんな事できっか! …それにアキラ姉さんからもアンタの事、聞いたしな。シバとも仲良かっただろ?」
なるほど。その“ウエ”という人物と村木は知り合いなのか。そしてシバと親しくしていた俺や俺の勤める病院に狙いを定めたのか。
アキラの“誘導”もあったようだが。
「シロもアンタを恨んでたしな。森っちも怒っていたし…。なんか他にも恨まれてそうだな、アンタ」
シロとは、“元”友人の白井の事で。“他にも…”というのは、去年大木屋で見たあの“連合”の連中か。
その連合とコイツらを“繋いで”いたのが、白井のバカだが、去年以降、全く見ていない。新馬の会社もやめてしまい、その新馬とも断絶したから、もう行方がわからない。アイツの勤務していた先なら調べは付いているが、出戻りしているとも思えない。
何しろ、白井はいわゆる“名簿屋”でコイツらの“仕事”用のリストを得て、横流ししていたのだから。
これに元市役所の臨時職員の野田。求人誌営業で偽装派遣の“副業”をしていた稗村という男がつるんでいた。
“真里谷グループ”、“白井、野田、稗村”、“反篠千連合”…。
この3つの集団が“大連合”していたのが、去年の騒動の裏側で、これに『アキラ、村木が微妙に絡んでいた』と俺は見ていたが、さらにいたようだ。
村木をあんな風にしたのは、その“ウエさん”らしい。何者か。山内に訪ねたいが、コイツに頼むのはなんか嫌だ。
「…も、森って、て、元気き?」
「知らねえよ。ウエさんといるんじゃねぇの?」
「い、飯尾くん、はは?」
「うるせえなー、あのクソ爺に聞きな!」
(…何でだよ?)と俺は思った。
「し、白井は?」
「…シロ? 知らねえな、もう会ってねぇよ!」
白井のバカはコイツらと縁を切ったのか。
会が心配していた森の行方をもっと聞きたかたが、止めといた。
俺と飯尾は、一応同僚として働いていたので「くん」を付けてやった。
「な、何だよ、も、もう真里谷ってて、奴とつ、つるんでないのか、かよ?」
「うるせえ!」
「い、いつまで、は、浜松に、いるんだ?」
「うるせえ!」
山内は俺の動きに微妙に警戒しながら悪態を放っている
何か、悲しく見えて来た。
東京に戻らないのは、この浜松が気に入ったのか。いや、こんなキツい日雇い派遣の現場で働いているのなら単に金が無いのだろう。
それともまた浜松で“仕事”をする気か。
迷惑な奴だが、少し滑稽でもある。こうしないと生きていけないのだ。コイツの未来は俺のような人生かも知れない。そう思うと、吠える山内が微妙に哀しい。
あの真里谷には“捨てられた”のかもしれない。
「や、ヤニくせえなな、オマエ。む向こう行けや!」
俺は野良犬を追い払うように手を降り、喫煙スペースを指差した。
さすがに(キレるかな?)と思ったが、山内は「クソがっ」と言って、俺の言うとおり喫煙スペースに向かっていく。
いろいろ話してくれたから、もういいだろ。
アイツは、もっと話したかったのか。
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