エピローグ

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エピローグ

 「それでさ、何か他におもしろい人、いないの?」  従兄弟の小栗一健が興味深げに訊いてきた。  今、先月知り合ったYou driverの話をしてあげたところだ。なのに、まだ訊きたがっている。欲しがりな従兄弟だ。  俺は少し考えた。そんなカズちゃんの気を引く人間がいたかな。  (…)  ドリンクバーから持ってきたアイスコーヒーがぬるくなりそうだ。  アクリル板の向こうの従兄弟は期待の眼差しを俺に向けている。      (…いた!)  思い出した。  俺の働く病院に不思議な男がいる。  1階の売店で働くおじさん。歳は50才は過ぎているように見える。背が高く、図体も大きい。  名前は分からない。  名札をしていない。  このおじさんが非常に無愛想なのだ。  病院の売店は通常の販売業務とともに、病棟の患者からの依頼で売店の物品を送る業務がある。  どうもこのオヤジは売店所属では無く、病院側に雇われて、『院内配送』を請け負っているようだった。  ゴミの回収の際、俺はこのおじさんと度々顔を合わせる。  おじさんはいつも仏頂面で俺を無視する。  俺だけではない。  俺達、清掃関係(BPN)の人間にろくに挨拶をしない。  しかし、病院の関係者、看護士や医者などには鳥が炭酸水でうがいしたような、にこやかな声で挨拶を返す。  明らかに態度を変えるのだ。  俺達、外部業者を“下”に見ているのだ。その露骨ぶりが凄い。まるで中学生のような露骨さだった。  なので、我々病院清掃請負業者BPNのメンバーからかなり嫌われている。  原さんなど「…アイツめ!」とよく控室兼事務所で愚痴っている。  「そんなおじさん、いるの!? で、ケンちゃんはどうなの?」  「い、いや、ど、どうって」  カズちゃんは何故か嬉しそうだった。
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