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① messenger/リンキンパーク
2021年4月になった。
東京五輪が新型コロナウイルスの感染症蔓延で、一年延期になった。
俺はまだ近所の病院で働いている。
感染症の患者は先月中から増え出し、静岡県でも日ごとに増えている。第4波らしい。
また緊急事態宣言が出るやもしれない。
もうすぐ梅雨の時期が来て、夏になる。
去年(2020年)の夏にも経験したが、もうこのマスクをいい加減に止めたいところである。
去年は元カノと東京から来たおかしな奴らに振り回され、スマホを壊されたりした。
…散々だった。
俺と従兄弟の小栗一健(カズちゃん)は近所のファミレス、ダストで会っていた。
俺達の間には透明なアクリル板があり、互いにマスクをしながら言葉を交わしている。邪魔で仕方ない。
カズちゃんはチーズ入りのハンバーグランチを頼み、俺も同じものを頼んだ。ドリンクバーを付けて貰い、食事か終るとカズちゃんは俺の近況を訊いてきた。いつものパターンだ。
俺は今までの事を、こうして定期的に従兄弟に話している。
病気の事。街中の居酒屋の話、これまでの仕事(派遣)で会ってきた人間の事、俺の働く病院内の事、一昨年の“DV騒動”…。
去年の“元カノ”と東京から来た“おかしな奴ら”との争いはまだ伏せて置いた。少し恥ずかしいし、アイツらの事はカズちゃんとに話すのは憚られた。
小栗一健こと、カズちゃんは俺と同じ派遣業で働いている。年齢は俺より一つ上だ。そして同じく未婚。親戚の中では肩身が狭い、と境遇が似ていた。
子供の頃、よくカズちゃんと俺、弟の三人で遊んだりした。
俺が手術した後から、たまに会って世間話などを年に数回するようになった。
口の不自由な俺からしたら、少し面倒な面もあるが、毎回食事代はカズちゃんの奢りであるので俺は誘われたらことわらない。
さらにカズちゃんの母親は俺の親父の妹であり、亡くなってしまったが、俺が今の病院で働く(というか、村木を引っ掛ける為の)きっかけを作った人である。
カズちゃんには村木との“抗争”も含め、話してある。
「ケンちゃん、そのおじさんと揉めたの?」
カズちゃんは何故かニコニコしながら訊いてくる。俺が派遣現場で揉めるのが楽しいのか。
その無愛想なオヤジだが、俺は初めの頃には挨拶をしたが、ほとんど無視されるので止めた。 俺も、他の看護士や医者、医療従事者には挨拶はするが、あのオヤジにはしない。目があっても無視している。
たまに廊下などで行き交うと、互いに聞こえるように舌打ちをしている。
特に向こうから文句などを言っても来ないから、俺は平気だ。
何か言われたら、またいつもの「口が不自由なんで…」で逃げる気でいた。
あんなバカにいちいち腹を立てていられない。
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