① messenger/リンキンパーク

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 そんな予測をカズちゃんに披露した。  「…何だか、悲しいおじさんだね?」  俺の予測を聞いて、カズちゃんは呟いた。  その通りだ。  非常に悲しいオヤジだ。  今まで人間関係を作ってこなかったのだろう。自分以外は『上か、下か』であり、『味方か、敵か』としか他人と付き合えない。つまり“仲間”が作れないタイプの人間なのだろう。  本当に悲しい人間だ。俺の出会ってきた人間たちの末路、と言っても良い。  だが、俺は心の底からは笑えない。  あのオヤジを含め、これまで揉めてきた奴らは、どこかで俺自身と繋がっている気がしたからだ。  他人と相容れない。見下す。正常な人間関係を構築できない。  それは俺も同じではないか。  (…バカなオヤジだな)と、仏頂面で介護用のビニールエプロンをするオヤジを小馬鹿にしても、それは数年後の俺自身ではないのか、と思えてしまう。  行き違っても挨拶をしないオヤジへの苛立ちは、俺へのそれではないのか。  そう考えると、俺は妙に笑えない気持ちになる。  今年(2021年)で、俺は遂に43才になる。  いつまでもこうした仕事(派遣)をしていけるのか。  やはり不安である。  俺の一つ上のカズちゃんは44才だ。  県内の有名メーカーで派遣社員として働いている。俺と同じ派遣だが、カズちゃんの方はそれなりに賃金も高く、上手くいけば正社員もあり得るという。年齢的にもそうした方向に進むのか。  「ま、そ、そんな、か、感じかな?」  「…ふーん。…そう言えば、例の“腰抜け”じいさんは?」  村木の事だ。  カズちゃんには、あのどうしょうもないジジイの話は既にしてある。  去年の11月に“ツンツン”らに“襲われ”、入院したところまでは知っているが、それからは分からない。  病院にまだ入院中なのか。  俺にそれを教えてくれた鶴田のおばさんの話では違う病院に入ったらしいが、その後は分からない。院内では見ていない。  以前は、俺がゴミ回収の台車などを牽いていると廊下ですれ違ったりした。それこそあのオヤジのように無愛想に無視したり、身体を翻してどこかに消えたりした。“裏切り者”の俺の顔など見たくも無いだろう。  「さ、さあ。さ、最近、見ねぇな」  「…辞めたの? まだ入院中?」  「さあ…」  村木のじいさんが入院したという事も、カズちゃんには、既に話してある。  どうしたのだろうか。本当に辞めたのか。  いや、あのじいさんもオヤジ同様、村木も“居場所”のない人間だ。せっかく自分が威張り散らせる環境を手放すのはずがない。  体調などが戻れば復帰してもおかしくない。  しかし、俺が話を聞いてからそろそろ半年。  …一向に姿を現さない。  怪我の具合が悪いのか。  他に病気でも見つかったか。  (ま、少しの事では死にそうも無いジジイだったけどなぁ)  そんな事を思いつつ、俺はカズちゃんと雑談を続けた。  安いセットとドリンクバーで3時間近く粘ったが、ダストとしては良いのだろうか。  コロナの猛威で、客足はかなり少ない。俺達みたいな長居客でもいるだけマシなのか。  ま、普段でも追い出されたりはしないが…。  「ケンちゃん、また何か面白い話とか、誰かと揉めたら、教えてねー」  2人分の支払いを済ませたカズちゃんは笑いながら、そう告げるとバイクに乗り、颯爽と夜の通りに流れて行った。  俺は小さく「あ、あり、が、がとう」とカズちゃんの背中に感謝を投げるだけだった。  カズちゃんは年に数回、こうして俺の話を聞いてくれるが、何の為なのか。何か理由でもあるのだろうか。時折、自分のスマホに何やらメモしているのも気になる。
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