① messenger/リンキンパーク

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 2021年の4月はそんな感じで過ぎて行こうとしていた。コロナの第4波がなかなか収まらない。  俺は21日に新型コロナのワクチンを射ち、副反応に苦しんだりした。身体がダルく、熱も出て1日自宅から動けなかった。  奇妙な事を目撃したのは、ゴールデンウィークも近付いた4月の最終週だった。  ワクチンの後遺症(?)から復活した俺は、病院1階ロビーのゴミを回収していた。コロナ患者が増えると、病院利用者が減り、こうした外来部のゴミは大きく減ったので少し楽になっていた。  俺が台車を牽いて、従業員用エレベーターに向かおうとすると、お見舞い客用のエレベーター前の長椅子に見覚えのある女性がいた。  大村だ。  俺のいたユニックスの営業担当の女性。俺と村木が揉めた際、何故か村木の肩ばかり持ち、終いには「契約」などと言い出し、村木を庇った人間だ。  ゴミ回収に多少の余裕が生まれたので、気付けたのかもしれない。  大村は隣に座る男性に必死に話しかけていた。  だが、その男は大村の方など見ず、まるで『聞く耳など無い』とでも言うように、ロビーの奥に顔を向けていた。二人は非常に揉めているようだ。  その男にも見覚えがあった。  蛍光色の派手な帽子。  初老というか、既におじいさんだ。  怒りの滲む目付きは鋭いが、それを隣の大村には向けず、時折チラチラと彼女を睨むようにしている。  村木だ。  間違いない村木だ。マスクをしていない。  退院していた。  こうしてこの病院のロビーにいるのなら、前と同じ厨房で働いていたのだろうか。  俺は二人の前を通ってみる事にした。気付かれても仕方ない。それよりこの二人が何で揉めているのか知りたいし、こんな場面に“排除”した俺が現れたらどういうリアクションをするのか、知りたかった。  二人の座る長椅子の数メートル横を通ってみた。  だが、二人は俺には気付かなかった。  大村は「~で、~の関係で…、お願いしますよぉ」と何かを懇願していた。  村木はやはり、顔を横に向けてふて腐れている。相当に怒っているようだ。「知るか!」とでも言いたげな顔だった。  二人とも俺の方には目をくれなかった。  村木の顔、身体に怪我は見られなかった。全治したのか。  お見舞い客用エレベーターの上の掛け時計を見ると、午後5時前。今俺の所属するBPNは終業の時間だ。夜9時まで働くユニックスは始業の時間が近い。  村木の出勤前に、大村が何かクレームを告げたのか。それとも村木がお馴染みの“ワガママ”を吐いたのか。  どのみち俺には関係無い。  大村が村木と揉めようが、村木が全快しようが、今の俺には微塵も関係無い。  俺は腹の中で『…一生、やってろ!』と暴言を吐いて、従業員用のエレベーターに台車を入れた。  後は、眼科のゴミを回収して本日の業務は終わりだ。
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