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「箸の持ち方が独特ですね」
「被害者は箸先で豆粒を挟めないだろうね、多分掻き込んで食う習慣じゃないかな」
鑑識の推測が当たりだでしょう。子供が茶碗に口をつけて掻き込む。いや、ペンを握るようでもある。
「被害者の身元が割れました。役所が時間だから明日にしろって生意気抜かすから首締め上げて調べさせました」
私の相棒である野崎は血気盛んですが、私には従順で嫌な顔ひとつせずに協力してくれます。
「被害者は大久保利治66歳、既婚、妻は直子60歳。婚姻届けを出したのが昭和25年8月、ちょうど今年で30年になります」
「被害者が36歳のときか」
私より4歳若い時に所帯を持った。
「少し遅いですね」
野崎は言って私のことに気付いた。
「気にすんな、どうせ俺は未婚で終わりますよ」
野崎が頭を掻いて苦笑いしている。
「それで子供はいないのか?」
「妻直子の連れ子がいます。矢田部紘一、現在44歳です」
「44?それじゃ尚子が16の時じゃないか」
「そうなりますね」
直子がこの家に入ったのが三十路である。その時長男は既に15歳。
「被害者の職業は?」
「翻訳家です。ロシア語に精通していてそのスジでは権威だそうです」
「収入は相当あっただろうな」
「調べて来ます」
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