Bird's Eye

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しかし次の瞬間、その声を上回るほどの轟音と共に天井が崩落し、眩しい光が差し込んだ。そして光に照らされて黄金に輝く砂塵を撒き散らしながら、一羽の巨鳥が飛来する。カイルの胸に輝く光を(よすが)に手綱を操るのは、彼が誰よりも知る頼もしい男。 「カイルッ!!」 「父さぁぁん!!」 フレンの力強い手がカイルの手を間一髪掴み取り、水で濡れて重くなった体ももろともせず、後ろのキンダーソンの方に引き上げた。 「よく持ち堪えた、カイル!お前の親父さんはな、躊躇なく砂漠に爆弾を投げ込んだんだぜ!」 「全く…老い先短い老人の寿命を縮めさせるんじゃないわい」 「すいません、でも、そんなことより…あれを!」 太陽の光が差し込むようになったことで、周囲の様子が更にわかりやすくなった。そこで改めて四人が樹の根本を見ると、全員が声を失う光景が広がっていた。 そこにあったのは、樹が根を張った巨大な化石。正確に言えば、白い岩盤と見紛う程に巨大な鳥の頭蓋骨の眼窩から(おびただ)しい数の太い根が絡みつき、地上へと伸びている様。そこにあったのは、象をも掴んだという逸話も頷ける程の巨体を偲ばせる、ロック鳥の始祖の化石だったのだ。その(おぞ)ましくも神々しさを感じる姿に、誰もが言葉を失った。 「これが…『神鳥賛歌』の真相でもあり…この怪奇現象の正体という訳か」 フレンは声と共に弱く手綱を引き、その根へと近づいていく。骨から溢れて伸びた根の一部が地底から流れ込む水流を受け、化石全体がゆっくりと旋回している様が確認できた。 「伸びた根が水流を浴びて…歯車のように地表ごと回転しているようだ。磁石が狂ったのは、骨か水流の中の砂鉄に反応したからかもしれん」 「信じられないが本当だ…。地表にもびっしりと根が張り巡らされている」 「強固な根は力や摩耗で切れることもなく…大地ごと回転させているという訳ですか?奇跡です…!」 「おお…神鳥様。確かに神鳥様は、『まなざしの樹』の下で眠っておられたのじゃな。目を樹に変えて、川の流れで目を回し、(あまね)く世界を眺めておられたのじゃな…!詩を唄い継いできて、本当によかった…!」 その場にいる誰もが次第に口を開き始めたが、その全てが感嘆によるものだった。数千年前から語られる叙事詩に謳われた、昏き流れに身を横たえた伝説の神鳥の遺骨の前に、圧倒されない生物はいないだろう。 「さあ、こうしてはいられん。早速戻って報告しよう。これからは忙しくなるぞ」 「合点承知ですよ!」 「勿論!」 四人を乗せたロック鳥が、再び空へと駆け出す。カイルは心なしかその(まなじり)が、偉大なる始祖の姿を目に焼け付けたように見えたのだった。
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