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そして、カイルは一つの疑問に行き当たる。
「待てよ…そもそも『まなざしの樹』の下はこんな空間があったのか?根があった箇所が空洞になったのだとしたら…とんでもなく深いところまで頑丈で巨大な根が伸びていたんだな」
まるで先程聞いた叙事詩のようだ、とカイルは思いながら周りを見る。すると不意に開けた場所が照らされ、そこに水が流れ込んでいるのが確認できた。
しかし、いくら照らしても先が見えない。よほど広い空間が広がっているのかもしれない。
(み…見たい!大樹の下の地下空間なんて浪漫がある!そのためにも、何としても帰還しないと)
だが、そう考えた瞬間、カイルの足元が崩れて再び水の中に落ちてしまった。その体は皮肉にも、見たいと願っていた暗闇の先へ流されていく。
「うっ…!」
体を掻き回すような奔流に振り回されるカイルの体は前後不覚に陥る。そしてそれが終わったかと思うと、その体は滝のように落ちる水流から浮き上がって自由降下を始めようとしていた。
「うわああああ!!」
咄嗟にショルダーバッグを振り回し、岸壁に引っ掛けて落下は免れる。だがそれでも体には容赦なく冷水が浴びせられるばかりか、水の落ちる先が見えないほど暗く深い高所にいることが理解でき、全身が粟立った。
「嫌だ、こんなところで死にたくない!僕はまだ何の役にも立ててないのに!」
カイルの高まった感情で滲み出た手汗と無限に溢れ出す地下水によって、握った鉱石が明星のように輝いた。周囲の暗闇が徐々に照らされて明らかになっていくと、カイルの心に恐怖とは違う強い感情が込み上げる。
「こ…これは…!?」
だが、次の瞬間、鞄の肩紐が千切れてカイルの体が三度宙に投げ出された。胸の石が光の尾を引いて、流星のように落ちていく。
だだ広く、冷たく昏い空洞に、青年の絶叫が反響した。
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