Bird's Eye

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程なくして、受付は一人の男を連れてきた。濃緑色のケープを羽織り、丸眼鏡にひっつめ髪を頭の後ろでまとめた初老の男性。それは受付に下がるよう言いつけると、(ラタン)製の家具で統一された応接間に通して話を始めた。 「お待たせしました。当協会の局長であり、商会に収めた地図の責任者でもあるフレン=ウッドです。地図に不備があるとのことでしたが…詳しくお聞かせください」 「ウッドとやら。貴様は各商会に統一した地図を用意したな。アスフール砂漠を中心とした移動ルートを記し、他都市との貿易を円滑に行えるようにとな。しかし、これはどういうことだ」 ヘレネメスは折り畳まれた地図を机の上に叩きつけると、籐の椅子にふんぞり返った。その図面には赤や黒の洋墨(インク)でびっしりと書き込みがあり、中でも道路を示す二条線の付近にバツ印がいくつも書き込まれている。 「我が商隊より、地図通りに進んだのに迷って、あやうく遭難しかけたと報告が入った。中には野盗に商品を奪われた者や、荷車が吹き溜まりに突っ込んで水瓶をひっくり返した者もいる。この損害、貴様らに請求せずにどうしろと言うのかね」 「それは申し訳ありません。…しかし、天候に寄る所もあるのではないでしょうか。砂嵐でも起これば、方向を見失うことはままあることかと」 「我々は砂漠越えを知り尽くす商隊だぞ。そんな事態の際には通行を止めるし、何より風読みに天候を調べさせている。そんな言い訳は通用せん」 ヘレネメスは腕を組み、対するフレンを()めつける。フレンは困ったように頭を掻くと、差し出された地図に指を向けた。 「して…この無数の印は?」 「我が商隊が異変を感じたり、遭難を感知した地点である。それだけの被害があったと心得よ」 「異変とは、詳しくはどのような」 「これに記されたるは、砂漠の中心地にそびえ立つ『まなざしの樹』を目印に考案された通行ルート。そこを境に東西南北、各都市に通じる道としたものであろう。だが、それに倣って進んだのに記された街にたどり着かぬという。酷い時には南の港へ行くはずが、西の遺跡地帯に迷い込み、盗賊の根城に突っ込む始末。どう言い逃れをするつもりかね」 ヘレネメスが言い寄るが、フレンは顎に手を当てたまま動かない。 「貴様、何か言わんかぁ!会長が水を向けて下さっているのだぞ!」 「…わかりました。一度この件は預からせて頂きますので、原因解明の際にはお知らせします。直ちに検証に入りますので、今日の所はお引取りを」 「フン、生意気な。疾く済ませるがよい。さもなくば、我が商隊の損害をすべておっ被せてくれようぞ」 ヘレネメスは杖を支えに立つと、手下を従えてぞろぞろと外へ出た。砂漠の熱く乾いた風が通り抜ける中で、フレンは至極冷静な目つきで置土産の地図を睨めつけていた。
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