Bird's Eye

8/14
前へ
/14ページ
次へ
すると、悩む一行の元に弦楽器の音色が響き渡った。口を噤んでその方向を見ると、大樹の後ろから陽に焼けた小柄な老人がリュートを持って現れた。 「あ、貴方はさっきのお爺さん…」 「測量の時に人払いはしろといつも言ってるだろうが。…おい爺さん!吟遊詩人か?ここは何だか危ないからさっさと帰りな」 キンダーソンが静かに怒りながら忠告するが、老人は黄色い歯を覗かせるとリュートを奏で始め、朗々と歌いだした。 『ここはスタジア砂の国 死の原に栄えし翼の都 砂漠流るる水の調べに 耳傾けるは神の鳥 西へ東へ飛び回り 人の栄えに手を貸した 北へ南へ都は栄え 人は鳥をば奉る 巨鳥が墜ちたその日には 洞に涙の川流る 人亡骸を弔えば 昏き大河に横たえて 墓標に見立てた苗木をば 祈りを込めて埋め立てん 大樹と共に見守り給え 我ら人の子の営みを 御霊導くその大樹 まなざしの樹と呼ばれけり 月日は流れ幾星霜 陽が万遍巡りても まなざしの樹が枯れてなお 鳥の御霊は不滅なり 故に鳥は空を征く 夢を乗せて空を征く ここはスタジア砂の国 死の原に栄えし翼の都』 呆気に取られる一行だったが、フレンの呟きで静寂が破られた。 「……『神鳥賛歌』。スタジアに古くから伝わる有名な叙事詩だな」 「へへっ、ご静聴ありがとうの」 「ああもう、チップやるからすぐ帰れ!こっちは仕事中なんだよ」 キンダーソンが苛立ち混じりに財布を取り出す中、老人はリュートをもう一奏でして嗄れた声を挙げた。 「この詩は…儂が子供の頃に…曾曾曾祖父さんから受け継いだもの…。儂はもう年老いて…学もないが…これだけは誰よりも歌える自信があるんじゃよ…」 「あのなあ」 「だから…わかるんじゃ。この『まなざしの樹』は神聖なもの。その周りをラクダや車輪に踏み均されたなら…詩の中の神鳥様はどう思うかね…?」 「…この現象は神鳥の祟りだとでも言いたいので?」 フレンの問いに、老人は(かぶり)を振る。 「そうではないが…人は一度顧みるべきじゃと思う…それだけじゃよ」 「はい、もう結構。スタジアから来たんでしょう?詩が上手いから、きっと都でやればここより儲かりますよ。途中までロック鳥で送るから…」 フレンは無理やり老人を静かにさせようとしたが、そこで不意にあることに気がついた。いつも静かではあるが、やはり実の子。例え何歳になっても、いなくなればすぐにわかるものだった。 「……待て。カイルはどこに?」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加