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【虫刺され】
「りょーた、かゆかゆ?」
「んー……かゆい……」
「あらー」
蚊取り線香を焚いたものの、蚊に刺されることのない神様たちに囲まれていたため全ての蚊が俺に集まっていた。神様の血を霊力の無いものが摂取すると体が耐えられず死んでしまう。
それは血だけではなく、近くに居すぎることも同じ危険性をはらんでいる。そのため、俺はおみと一緒にお風呂に入れないし、特別なメガネで身を守っている。
とはいえ、俺にも多少とはいえ霊力がある。普通に生活している分にはなんの問題もない。だからこそ今回はすっかり忘れていて、腕や足が大変なことになっているのだが。
「薬を塗るといい。それにしても、見事な刺されっぷりだな」
「いーしゃ、りょーたかゆかゆ」
「すぐに治る。心配するな」
かゆいのは困るけど、外で寝たのは気持ちがよかった。自然に囲まれている感じがしたし、おみも嬉しそうだった。おみの笑顔のためなら虫刺されの一つや二つ(実際は十数個)何てことはない。
出会ってまだ一年とちょっとなのに。どうしてここまで情が湧いたかな。
明日、ということは山に帰る頃には痒いのも治まっているということだ。さすが宗像三女神お手製の軟膏。効き目が抜群すぎる。今日一日の我慢と思えば耐えられる気がする。
「明日にはもう帰るんか。寂しいねぇ」
「うふふ。私が帰る時と同じことを言うのね、たぎちゃん」
「しゃーしぃがねぇ、おきつ姉さんは」
ぽりぽり、蚊に刺されたところを掻きつつ、へらりと笑う。いいなぁ、家族だなぁ。学生の頃、俺もよく母親に言われていた。
もう帰るの? 早いわねぇ。あっという間だったわ。
その時は「そんなものか?」と思っていたけれど。家族が出来た今はその気持ちがよく分かる。俺とおみは、今はずっと一緒に居られる。でもいつかは離れ離れになるのだ。神様と人間だから、それは決まりきっている。でも愛しているから、きっと俺は死の間際にこう思うのだろう。
「もう会えなくなるのか、寂しいなぁ」
って。
「りょーた、おくしゅりぬるよー」
「はーい」
「ぬりぬりー」
おみの小さな手が、おいちさん特性の軟膏を塗りたくってくる。そんなに塗っても効果はあまり変わらないぞ、と言いたいけれど。
やっぱり、今はこの温もりが愛おしかった。
「ありがとな、おみ」
「かゆいのかゆいの、とんでけー!」
「どこに?」
「んー……かいちゃに!」
「かわいそうに……」
長い長い人生の、たった一夏。
その限りある日々の中で俺はひたすらにおみを愛おしむのだ。
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