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「あなたの想いがはっきり分かります。わたしは子供の頃のあなたの想いが生んだ小うさぎ。わたしはあなたがずっと見えませんでした。わたしが見ていたのは、青い星ではなくて、あなただったんです。知らぬ間にわたしの中に育まれてきた青い星への想い。そしてそれは青い星そのものであるあなたへの想い。そう気づきました。なんと嬉しいことでしょう。そしてなんと辛いことでしょう。わたしはこんな容姿になってしまいました」
「醜い姿のわたしを嫌わないで下さい」
「やっとあなたと話すことが出来ました。私の想いのあなたよ。病の苦しみ寂しさから、救ってくれたのはあなたです、ありがとう」
「あなたは醜くなどはありません。私の中の美しいという言葉があなたをそのような容姿にしたのです。子供であった頃の私が望んだのは小うさぎであるあなたでした」
「しかし、ある時病院で気付いた、いえ気付かされたんです。あなたは私にとってかけがえのない人、女性として愛すべき人だと。あなたの姿は私の中の女性像そのものなのです。あなたは美しい女性なのです」
「私は美しいあなたに触れるために、そこに行きたい。いにしえの物語のようにバルコニーにおられるのなら、蔦をよじ登ってあなたに会いにいきたい」
「わたしはあなただけの小うさぎ。わたしはあなただけのウサギ。あなたに触れて欲しい。わたしの満たされない想いに、ひと頬分の水を口に含んで、くちうつしでわたしの喉に注いで渇きを潤して欲しい。わたしのあなたよ。わたしはあなたのわたしなのです」
花火は上がり続ける。
二人は手を伸ばした。
空間が想いで歪む。
距離は意味を持たなくなり、空間という紙の両端に留め置かれた二人は、その間にまっすぐに入った折れ目に沿って、湾曲していき、徐々に近づいていく。
重力レンズに花火は、そこかしこにその像を無数にむすぶ。
二人はあらん限りの力と想いで、精一杯手を伸ばした。
「あなたの匂いがわかります」
「あなたの目のサファイアがわかります」
「掴んで、お願い」
「ええ、掴んでみせます」
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