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ふっと磁石の同極のように二人ははじかれた。
「あっ!」
「なぜ!」
青い星と月はけっして触れ合うことの出来ない、科学の運命に引き裂かれた。互いに引力で引かれあっているが故、指に触れることすら出来ない。
その七夕の花火は、二人の間を流れる天の川だった。
ウサギの女性は青年に向かって必死で走った。
永遠に縮まらない距離に疲れ果てて立ち止まった。
長い時を経て、惹かれあう人が目の前にいるのに会いに行く事すら許されない。
青年の叫び続けている姿に自分が壊れそうになって、目をしきりに触り、あの小瓶を目にあてて、瞳のサファイアを戻そうとしたが、瓶に落ちる音はしなかった。
彼女は錯乱状態になっていった。
青年はどうすることもできなかった。青い星と月の運命の掟に抗うことは出来なかった。狂乱していく月の女性を悲しみに耐えて、逃げずに、目を見開いて脳裏に焼き付けた。
届かない彼の涙は、彼女の燃え盛るような心の業火を消すことは出来なかった。
やがて彼女は小さなウサギの亡骸となった。
青年は天文学を捨てた。人生を捨てた。
海軍将校の青年とその婚約者の若い女性を乗せて、空母艦は月と青い星の間を航行していた。
360°の星の世界だった。女性が花火を見たいと言ったのだった。
女性は胸に手をあてて嗚咽していた。青年将校は背に手を添えていた。
―― 「私があなたの所に来たばっかりに、想いを叶える瞳が、あのうウサギさんの所に届いてしまったばっかりに。なんて悲しいことを起こしてしまったの、私は」
―― 「あの瞳は必要とする人に贈られるのです、あなたのせいなどではありませんよ。気をしっかりお持ちになって」
将校は慰めて言った。
―― 「お願いがあります。月に向かってください。あの亡骸に残る想いをこの船に乗せて下さい。そしてあの青年に届けるために青い星に向かって下さい。わたしたちなら・・・」
―― 「この船なら、惹かれあうが故に引き離されてしまった二人を、あの二律背反のような科学の呪縛から解き放って、離れた二人を一つにしてあげることが出来るかもしれません」
―― 「しかし1つ問題があります、この船は戦争に使われた空母艦です、船に責任はありませんが、青い星には戦争をお金の為に起こした人たちがいます。今も生きております。この艦にともに友として乗って下さっているさまざまな国の戦死された方々から許可が頂けるか・・・
―― 「わたしが頼んでみます、みなさんをお集め下さい」
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