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「食事はどうですか?」
「おもゆなら喉を通りました」
「良かったです。少しずつ数値も安定してきていますから、ゆっくり体を治していきましょうね」
女医は少し改まって言った。
「あの・・・、あの時、手を貸してくれてありがとうございます」
「祖母が亡くなった日、この病院の、廊下で」
「・・・えっ、あの時のお嬢さんだったんですか?」
「そうです、医師になりました」
「なんという巡り合わせなんでしょう」
「そうですね、医学や、科学の届かないところみたいです。そろそろ一般診察なので行きます」
「ありがとうございます。ゆっくりですががんばります」
体調が良くなってきていた。
ウサギの想いは男性の心臓にいれられていた。
その想いは男性の心臓の動きとシンクロして、形を変えた、まるで男性の心臓に蘇生のマッサージをされているようだった。
日々男性の鼓動は力強くなっていった。
あの日から何年目かの七夕だった。
心臓の鼓動がエコーのように響き始めた。
徐々に違う速度の鼓動が時を刻んだ。
ウサギはゆっくりと瞼をあけた。赤い珊瑚にサファイヤが宿っていた。
「花火ですよ、そこから、一緒に見ましょう、あなたはきっと今日目覚めると思っていました」
みちがえるほど鍛えられた男になっていた青年は優しく言った。
ウサギは怪訝に答えた。
「あなたは誰ですか?」
白髪が部分的に目立つ教授は言った。
「みなさん、月にウサギはいるんですよ」
それまで退屈そうに大学の講堂で体験入学の学部案内をきかされていた、高校生たちは一斉に教授を注目した。
「そして美しい女性となってこの青い星で生きているんですよ」
なんのことかと高校生たちは戸惑っていた。
「さあ、天文学を学びましょう。天文学科はあなた方を待っています」
そう言うと、これで終わりですというふうに、演台の上の資料を集め、とんとんとまとめようとした。
資料がネクタイにあたり床にちらばった。
焦ってかがんで資料を拾い集めているその教授の姿に
高校生の失笑があちこちでした。
と、舞台のそでから一人の女性が教授に駆け寄って
資料を拾うのを手伝った。
その女性のあまりの美しさに講堂は静まり返った。
囁きが聞こえる。
「綺麗過ぎる」
「さっきいってたうさぎさん?」
「演出じゃない?いや二人とも顔真っ赤にしてあたふたしてるし、ちがうか」
二人は資料を拾い終わり、肩を並べて軽く会釈すると、そでにはけた。
そのとき二人は西日に四角く切り取られた埃のキラキラ舞う場所を通った。
高校生の中にざわめきが拡がる。
「見た、影。耳がぴょんとあったよ」
「うん、みた、みた」
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