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呻きトンネル
あれから一週間、なかなか全ての条件が一致する日は来なかった。皆で毎日、夜中まで実験室にいるか、そのまま寝てしまって朝を迎えることもあった。
あと三日で夏休みが終わってしまう。九月に入ってからもこの実験が続くのだろうか。若干、諦めの色が見え始めた頃だった。
「もう十二時回ったなー。帰るか」
そう言って大木が冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
「チェッチェッコリ、チェッコリサ、二酸化マンガン、炭素、マンガン」
替え歌を歌いながら缶ビールを飲み始めたところで、坂下がSNSの画面を見ながら言った。
「先輩、新しい投稿がありましたよ! 『ゆるさない、だか分かんないけど、さっきこんな動画録れました』って、動画あがってますよ! しかも、アップしたてです!」
動画のアップ時刻は、十二時五分。一分前に投稿されている。坂下は、動画の再生ボタンをタップした。
ドライブレコーダーのようだ。トンネルを通ると車内が暗くなる。すると静かな車内から、女性の小さな声が聞こえた。「ゆるさない」とも聞こえるし、小さかったので「つぶさない」とも聞こえる。
「な、なぁ田山。これは、アレか? 行くしかないか?」
「ああ。二人とも、行くぞ」
俺の車に皆で乗り込む。運転席には俺、後部座席には大木と坂下。
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